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「ダリ展」 [アート]


「ダリ展」
2016/9/14(水)~12/12(月)
国立新美術館


大きな仕事がひと段落したので、
ちょっと一息ついている。
とはいえ、次の仕事が(すでに)スタートしているので
まとまった休みなどとれない。
ゆえに、小休止。
いまのうちにできることをしようと思って、
まず思いついたのは、美術館めぐりだ。


さっそく足を向けたのは日本橋高島屋で開催されている
「日本美術と高島屋」10/12(水)~10/24(月)
横山大観、富岡鉄斎、前田青邨など
高島屋と交流のあった日本画家たちの作品がずらりと並ぶ。
所蔵作品から約60点を展示しているが、これほど見事な
コレクションを所蔵しているとは知らなかった。
「豊田家・飯田家 寄贈品展」も同時開催されている。
どちらも入場無料! お時間ありましたら、ぜひ。

<高島屋ホームページ>
http://www.takashimaya.co.jp/


そしてお次は、「ダリ展」だ。
ダリは開催されるごとに観ているし、
フィゲラスのダリ美術館も、
マドリッドの国立ソフィア王妃芸術センターも、
パリはモンマルトルのダリ美術館も行ったので、すでにあらかた
観てしまったのではないかと思っていたのだが、
恐ろしく多作の作家であるため、まだ全然網羅できていないのであった。
すべてを見つくすことなんておそらくできないだろう。
初見の作品は、思った以上にあったのだった。

今回の展示は、油彩をはじめドローイング、オブジェ、ジュエリー、
書籍、映像などを含め約250点という充実ぶりだ。
初期作品から始まり、モダニズムの探求、シュルレアリスム時代、
ミューズとしてのガラ、アメリカへの亡命……と、ほぼ時系列に展示される。
一つひとつの作品の濃度が高いため、途中で少々見飽きるが、
ダリの全貌を知るという意味では、よくできている。

初期作品は、ほぼ10代で描いたもの。
ダリが暮らしたカダケスの風景や祖母の肖像など身近なものに
材を取っていて、その技術の確かさには目を見張る。
とても10代の若者の手によるとは思えない完成度なのだ。
若い時分からこれだけ描ければ、そりゃ楽しいだろう。
また、順を追って観ていくにつれ、
キュビスム風、ピュリスム風、古典主義など
当時の美術界の動きに応じた作品が登場する。
そうしてあらゆる作風を模倣しつつ自身の世界を確立していくのだが、
どれを観てもある程度こなしているところがすごい。
豊かな発想が評価される作家ではあるが、その根本には
どんな作品も描くことができる技術の高さがあることがよくわかる。
逆に言えば、どんな作品でも描けるからこそ、
独特な作品世界を展開することができたのだ。

なかでも衝撃的だったのは、
《幻想的風景 暁(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》
《幻想的風景 英雄的正午(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》
《幻想的風景 夕べ(ヘレナ・ルビンスタインのための壁面装飾)》
の3部作。
壁一面を占める大迫力サイズで、ダリの世界がさく裂する。
飛ぶ鳥と人物のダブルイメージ、空のグラデーションが本当にすばらしい。
深遠なるダリのインナーワールドを旅するみたいだ。

また、《ポルト・リガトの聖母》はバリエーションが何作かあり、
今まで何度か観ているはずだが、
ガラへの深い慈愛が豊かに表現されていて、いつ観ても感動する。

さらには、映像作品《デスティーノ》では
ダリの作品に登場するモチーフたちが躍動していて、たいへん面白かった。

観るところが多すぎて、とても言葉につくせない。
会期はまだ始まったばかりなので、
気になる方はお時間のあるときにお出かけください。
ダリのめくるめく世界を旅すれば、
ストレスも解消!できるかもしれません。


<ダリ展 オフィシャルサイト>
http://salvador-dali.jp/

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ポンピドゥー・センター傑作展 [アート]


ポンピドゥー・センター傑作展
2016年6/11(土)~9/22(木・祝)
東京都美術館

ポンピドゥー・センターは、
パリの中心部に堂々とそびえたつ国立の文化施設。
その核をなすのが、国立近代美術館である。
20世紀初頭から現代までの作品11万点を所蔵する巨大な施設だ。
思えばパリには2回行ったが、ポンピドゥー・センターは
前を通りすがっただけで中に入らなかった。
観るものが多すぎたので、次回以降に回したのだと思うが、
あれから約20年もたってしまった。

今回の展示はたいへん斬新な試みで、
1906年から1977年までのタイムラインに沿って、
1年1作家1作品という選び方で時系列に展示されている。
よって、順番に見ていくことで
20世紀フランスの芸術史をたどることができるというわけだ。
作品数は限られているものの、当然ながら
今まで知ることのなかった作家が多く、
バリエーションに富んでいて観飽きない。

そのなかでも華やかな時代というのはやはりあって、
20世紀初頭のフォーヴィズムやキュビズムが台頭したころの
作品群は、群を抜いて印象が強い。
ラインナップを観れば、ブラック、デュシャン、シャガール、
マン・レイ、コルビュジエ(祝・世界遺産決定!)など錚々たるメンバーだ。
またその後に登場するピカソ、カンディンスキー、マティス、
ジャコメッティ(じつは大好きだ)も必見である。

1年ごとにひとつの作品を展示するということは、
その年を象徴する作品が選ばれるということで、
なぜその作品なのかを紐解くと、社会背景や
作風の流行などがうっすらと浮かび上がってくるように感じられる。

年を追って均一に並べられたなかに、一カ所だけ
ぽっかり穴の開いた空間があった。
現代史においてとても意味深い1945年の展示は……。
気になる方は、ぜひご自身で確かめていただきたい。
これほどに気の配られた“展示”はほかにないだろう。
芸術を愛するフランスならではの魂の表れではないかと思う。

今回はどの作品も印象的で、
スポット的に取り上げるのがむずかしいのだが、
絞りに絞ってこの3点。

セラフィーヌ・ルイの《楽園の樹》。
専門教育を受けていない画家が突如として描き始めたのだという、
その作品は描かずにはいられないエネルギーの発露であり、
鮮やかな色彩に彩られた情熱の強さに圧倒される。
どういうわけか私はこうしたアウトサイダー・アートに惹かれてしまうのだ。

そして、カンディンスキーの《30》。
タイル状に描かれたモノクロのモチーフは、
まるで観る者に問を投げかけているようだ。
リズミカルに配されるモチーフは一体何だと思う?
ここに規則性はあるのか? など作品との対話を楽しめる。

さらにもうひとつ、アンリ・ヴァランシの《ピンクの交響曲》。
共感覚をテーマに描かれているところがたいへん興味深い。
共感覚とは、たとえば絵を観て音を感じる、あるいは逆に
音を聴いて色を感じるなどの特殊な知覚現象であり、
それを実際に描いた作品は今まで見たことがなかった。


比較的作品数がすくないので、じっくり観ることができるのもうれしい。
美術館というのは、空間もあわせて楽しむもの。
落ち着いていてゆったりした雰囲気が
とてもよかったと思う。
会期もたっぷりなので、夏休みの文化活動にぜひどうぞ。

<東京都美術館ホームページ>
http://www.tobikan.jp/

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「生誕300年記念 若冲展」 [アート]

「生誕300年記念 若冲展」
2016年4月22日(金)~5月24日(火)
東京都美術館

不安的中とは、このことよ。
会期が短いうえ、これから繁忙期に入るので
時間が取れる日が読めず、金曜日の夜間開館をねらったら大行列だ。
入館まで雨の中を1時間強並び、
中に入れば大混雑で作品まで近づくこともままならない。
10年以上前に三の丸尚蔵館で展示されたときは無料だったのに、
いつの間にこんなに人気が出たのだろう。
NHKの大々的なプロモーションも影響したのだろうが、
あまりにも混みすぎだ。
そんなわけで、あまりゆっくり鑑賞できなかったが、
それでも観に行ってよかった。
見逃したら一生後悔するところだった。

会場の中は、まさに若冲ワンダーランド。
想像していたよりも大きな作品が多く、
ずらりと並ぶ展示に圧倒される。
どの作品を見ても、伸びやかで緻密で、
創作に対するあふれんばかりの情熱がうかがえる。

鳥や水生動物、植物、虫などあらゆる生き物が
鮮やかに描かれ、その躍動感と表情豊かな描写に
目を奪われまくりだ。
「かわいい!」という声がこれほど聞かれる美術展も珍しいだろう。
なかでも《竹虎図》に描かれた
虎のまんまるお目目のチャーミングさったらなかった。
また、若冲が想像たくましく描いた“象”の奇怪ながらも
愛らしい姿に思わず釘付けになる。

今回もっとも注目されている作品群は
京都の相国寺に所蔵されている釈迦三尊像だ。
すっとぼけたような表情が人間味あふれていて、
かつて見た釈迦三尊像とはまったく違って面白すぎる!
鮮やかな色彩も相まって、親しみの持てる作品に仕上がっている。
聖なる人物というよりも、絶大なる信頼感を抱く隣人のようでもある。

全体を通して印象的だったのは、
鳥の羽や花々の描写に用いられた“白”だ。
一色のように見えて、その陰影は無数にも及ぶ。
少し離れた位置から見れば、立体感を帯びて迫ってくるのだ。
一色でこれほどの表現を可能にする技とは……若冲おそるべし。

会期が約1カ月しかないというのはずいぶんひどい。
これでは、よほど時間がある人しかじっくり観られないではないか。

本ブログ内で何度も書いてきたが、
日本では芸術に触れる機会がまだまだ限られている。
文化を育む土壌が欧米と異なりすぎるのだ。
文化的な財産を私たちが目にする機会はもっと多くてもいいはずだ。

これから行く予定の方、混雑状況をチェックしてください。
できれば時間のたっぷりあるときに、
細部までじ~~っくり鑑賞していただきたいものです。

若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)

若冲ワンダフルワールド (とんぼの本)

  • 作者: 辻 惟雄
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/03/28
  • メディア: 単行本



<「若冲展」オフィシャルサイト>
http://jakuchu2016.jp/

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Paul Smith+Masayoshi Sukita for David Bowie 2016 [アート]


「Paul Smith+Masayoshi Sukita for David Bowie 2016」
Paul Smith SPACE GALLERY
4/9(土)~4/17(日)

写真家・鋤田正義氏の作品、貴重なプライベート・コレクションなどに加え、
ポール・スミスがセレクトしたレコードジャケットや
ツアープログラムなどを展示している。
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いつでもセンセーショナルで、
存在自体が話題を集める人だったと
あらためて感じられた。



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「ボッティチェリ展」 [アート]

「ボッティチェリ展」
2016/1/16(土)~4/3(日)
東京都美術館

先の金曜日、ぽかりと時間が空いたので、
ふと思い立って行ってきた。
気がつけば、会期もあと1カ月を切っている。
危ないところだった。

《春(プリマヴェーラ)》や《ヴィーナスの誕生》で知られる
イタリア・ルネサンス期の巨匠、ボッティチェリの作品を
直接目にする機会は、それほど多くはない。というのは、
その大半が祭壇画や板に描かれた作品であるため、
現地に行かないと観られないものもあるからだ。
そのため、まとまった数の作品を展示する機会は稀なのだそうだ。
今回は20点以上のボッティチェリ作品とともに、
ボッティチェリの師フィリッポ・リッピ、
フィリッポの息子でありボッティチェリの弟子となった
フィリッピーノ・リッピの作品も展示されている。

第1章「ボッティチェリの時代のフィレンツェ」では、
同時代の関連作品をみることができる。
その多くは宗教画やメディチ家関連で、
良くも悪くもメディチ家の影響の大きさを感じられる。
そうした背景を踏まえて第2章からは
フィリッポ・リッピ、ボッティチェリ、フィリッピーノ・リッピ
それぞれ一人ずつに焦点があてられる。

3人の作品を続けて観ていくとやはり、
ボッティチェリの作品のクオリティが群を抜いていると思える。
今回の注目作品である《書物の聖母》はなかでも特に美しい。
穏やかな表情や衣服の質感、光の量や角度など細部に至るまで
きめ細やかに描きこまれ、その完成度の高さに目が離せなくなる。
時間のある限り観ていたいと思うほど、すばらしかった。

また、当時、その美しさで名を知られた女性の横顔を描いた
《美しきシモネッタの肖像》もすてき。
今にもしゃべりだしそうな唇、
遠くを見はるかすような瞳がとても魅力的だ。

さらには、人間味あふれる
《書斎の聖アウグスティヌス(聖アウグスティヌスに訪れた幻視)》、
十字架の形に切り取られた《磔刑のキリスト》といった
斬新な作品にも目を奪われる。

なかでも最も鮮烈だったのは、
晩年に描かれたとされる《アペレスの誹謗》。
登場人物をそれぞれ「誹謗」「不正」「真実」などの
意味をもつ存在として描く寓意的な作品だ。
光あふれる空間に、人物たちは表情豊かに生き生きと描かれる。
ダイナミックかつ躍動感があり、とてもすばらしかった。

ボッティチェリと師と弟子の作品は、思った以上にぜんぜん違う。
特に弟子のフィリッピーノの作風はどちらかといえば柔和な雰囲気で、
色も中間色が多い印象だ。
構図に関しても大胆さはなく、いささかおとなしい感じを受けた。

作品のなかには工房の名義になっているものもあり、
芸術に重きを置く当時の社会背景がうかがえる。
このころの芸術家はどちらかといえば職人的な存在だ。
工房制で弟子を取り教育も行うことから、小さな企業体といってよいだろう。
芸術家がインテリアや祭壇など生活全般の装飾を手がけるということは
つまり、芸術によって
暮らしまわりのソリューションを行うということだ。
ルネサンス期を代表する作品群を観るにつれ、
デザインの存在意義の根本にふれたような思いがした。

これまで観たことのなかった
貴重な作品が多く、たいへん見ごたえがあった。

東京都美術館の展示は最近さらに充実している。
今年の特別展は、
4月22日(金)~5月24日(火)「生誕300年記念 若冲展」
6月11日(土)~9月22日(木・祝)「ポンピドゥー・センター傑作展」
10月8日(土)~12月18日(日)「ゴッホとゴーギャン展」
と、必見の展示がつづく。
夜間開館を利用する機会はますます増えそうだ。


<東京都美術館ホームページ>
http://www.tobikan.jp/

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「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」 [アート]


「マルモッタン・モネ美術館所蔵 モネ展」
9月19日(土)~12月13日(日)
東京都美術館

10月に観に行って記事を書かねばと思っていたのに、
あっという間に12月。会期が迫っている。
はじめに言っておきます。
興味がある方、ぜひ行ってください!
今までとは違うモネに出会えます。

今回はマルモッタン・モネ美術館から出展されるということで、
今まで見てきたモネとは違うだろうと期待していた。
モネといえば、「睡蓮」があまりにも有名で、
お隣の西洋美術館の常設でも鑑賞できる。
個人的なことをいえば、初めて海外旅行に行ったときに
予定外に訪れたパリのオランジュリー美術館の
最後の部屋で観た壁一面の睡蓮は忘れることができない。
特別に好きではないけれど鮮烈な印象のある画家の展示は、
やはり観ておきたいと思ったのだった。

今回の展示は、マルモッタン・モネ美術館に
所蔵された作品を中心に約90点展示する。
モネが自身のコレクションとして、
手元に置いておいた作品も少なくないという。
それは例えば、子供を描いた絵や旅行で訪れた土地の絵、
晩年に描いた絵など、代表作として名をはせている作品とは少し異なる。
また、ドラクロワやピサロ、シニャック、ロダンなどの作品もあり、
モネ自身の嗜好が大いに反映されている展示であるからこそ、
画家のパーソナリティにより近づくことができた。

なかでもたいへん興味深かったのは、
学生の時にアルバイトで描いたという風刺画である。
時の人をデフォルメして描いた絵は、
顔が異常に大きく、その反面、からだが針のように細いという
一風変わった作品群だが、ユーモアがあふれていて面白い。

また、旅先で描いた絵などは、そこに
家族と過ごした輝かしい思い出がうかがえるようで微笑ましくもあった。

晩年まで手放さなかったという作品群を見るにつれ、
これはモネにとって個人的なアルバムのような
存在なのではないかという思いにとらわれた。
それはたとえば、私たちが大切な人たちと訪れた
旅先の風景や印象深い出来事を映した写真を
いつまでも手元に置きたいという思いと同じなのではないか。
いわゆる商業的な作品ではなく、自身が楽しむための作品は
何よりも親密な色合いをまとっているようにも感じられる。

「印象派」はいまでは世界的に知られる
いちジャンルとして定着したが、
モネが描き始めたころは前衛的な作風としてとらえられただろう。
それを見出した人がいて、
いま私たちが鑑賞できることは何よりも幸せなことなのではないかと思う。

きれいなだけではなく、
アグレッシブなモネの作品に出会えるという点で
観る価値は充分にある。
モネを「睡蓮」の人として認識してしまうのは、
あまりにももったいない。
これほどまでに多彩な作品を生み出していたとは知らず、
思いのほか新鮮な展覧会だった。

<東京都美術館ホームページ>
http://www.tobikan.jp/index.html









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「エリック・サティとその時代展」 [アート]


「エリック・サティとその時代展」
7/8(水)~8/30(日)
Bunkamuraザ・ミュージアム


エリック・サティ(1866~1925)は
19世紀後半末から20世紀初頭に活躍した音楽家である。
芸術家たちが多く住んだモンマルトルで、
ピカソやピカビア、ブラック、マン・レイらと交流を深めるなか、
多くの作品を生み出した。

本展覧会は「第一章 モンマルトルでの第一歩」をはじめとする
5つの章で構成される。
サティと同時代に活躍した芸術家たちとの交流を通して
サティの姿を浮かび上がらせる。

サティは音楽家であるから、
自身の作品と呼べるのは手稿の類である。
サティの手による楽譜は思ったよりも見やすく、シンプルであるが、
ときおり雑に消した箇所や書きなおした痕跡などがあって、
思索のプロセスが見えるのが興味深い。
少しクセのある音符や文字も味わい深く、
それだけ眺めても面白いものだ。

また、サティにとって生涯唯一の恋愛相手であった
シュザンヌ・ヴァラドン(画家モーリス・ユトリロの母親)を
五線紙にスケッチした作品は、何ともいえずかわいらしかった。
サティが絵を描く意外さ、愛する人を描く純粋さ、
五線紙(をタテに使って)描くという生活感に親近感がわいてくる。

同時代に活躍したロートレックやピカソ、ピカビアらの
作品はもちろん見ごたえのあるものばかりだが、
サティ自身の手によるさりげない作品をひとつ観るほうが、
彼の核心により触れることができるように感じられる。

なかでもおもしろかったのは、
バレエ・リュス「パラード」の再演映像である。
個人的には、昨年の夏に行われた
魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展」の続きとして観た。
(リンク先は当ブログ内の記事)

ディアギレフ率いるバレエ・リュスの舞台は、
衣裳と舞台芸術をピカソ、脚本をコクトー、
そして音楽をサティが手がけた贅沢なものだ。
いま観てもたいへん先鋭的で、
アイデアとユーモアがあふれている。
古典的なバレエから飛び出した
モダンでアクロバティックな動きは
先がまったく読めず、一瞬たりとも目を離せない。
時代の先端を走る芸術家たちが額を集めて、
お互いに切磋琢磨しながら作り上げた舞台のなんと濃厚なこと。
まさに、良き時代に生まれた傑作である。

サティの独特な音楽はいまでは多くの人に愛されているが、
発表当時はその不自然な音の運びに
違和感を覚える人も多かったのではないだろうか。
それが耳になじむうちに心地よさに変わり、いつしか
名作と呼ばれるようになっている。

サティの音楽が広く知られるようになったのは、
当時を代表する芸術家たちとの交流があったからこそだろう。
彼の身近に芸術を解し、奨励する人々が集っていたために
サティの音楽の価値が正しく評価され、
見いだされたのではないだろうか。
そう考えると、芸術が育つ環境はとても大切だ。
世に知られることがなければ、
それはないものと同じことになってしまうから。

<展覧会サイト>
http://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/15_satie/

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「マグリット展」 [アート]

「マグリット展」
3月25日(水)~6月29日(月)
国立新美術館


イマジネーションがたいへん豊富で多作な人だ。
すなわち作品数が多い。
1988年に近代美術館で行われた展覧会以来、
関連の展覧会があればわりと観ているほうだと思っていたが、
それでもまだすべてを網羅できず、
観たことのない作品がその都度ある。
まるでいまだに作品を生み出し続けているかのようだ。

今回は、国内外から約130点を時系列に展示している。
画家の創作活動とその時代背景のかかわり、
さらには作風の変遷を見ることによって、
マグリットのイメージの源泉や思想を浮かび上がらせる。

まずは、画業に専念する以前の広告関連から。
初期作品として、ポスターや書籍の表紙など、
いわゆるグラフィックデザインの類が展示される。
マグリットの作品はどちらかといえば
ポップアート的な色合いの作品が多く
一見、大衆に受け入れられやすいものが多いが、
そうした作風のきっかけは、この時代にあったのかもしれない。

その後はシュルレアリスムとの出会い、反発、
印象派へのアプローチなど、時代が移り変わるとともに
その都度なんらかのきっかけにより、作風が変わっている。
なかでも最も顕著なのが、第4章:戦時と戦後(1939~1950)。
作品が“暗い”と批判されたことに反発するように、
やけに明るい色合いの開放的な作品が並ぶ。
マグリットのもっともポピュラーな作品は、
この時代のものが多いのではないだろうか。

マグリットの作品につねにつきまとうのは“疑問”である。
何を意図して描いたのか一度観ただけでは分からないものばかりだ。
画家はおそらく、観る者に思考することを要求しているのだろう。
芸術作品とは美しさを提示するために存在するのではなく、
作家と観る者との対話を促すためのものであるべきだという
サジェスチョンが込められているかのように思える。

田園風景の中央に置かれたキャンヴァスには、
そのキャンヴァスがさえぎっているはずの風景が描かれている。
遠目で観れば、そこにキャンヴァスがあるとは
気づかないほどのリアリティをもって。
しかし、その後ろに同じ風景が展開しているとは限らない。
なぜここに、キャンヴァスがあるのだろう。
それがさえぎっているものは何だろうと考えずにはいられない。

マグリットは大変なテクニシャンである。
色や構成のバランスは見事というしかなく、
画力の確かさは言うまでもない。
巧みさゆえの説得力と迫力に満ちている。
手ぬかりなく語りかけてくる作品を観るうち、
画家の熱量に圧倒されてしまう。

今回の注目作品は、
帽子をかぶった紳士が大勢宙に浮いている《ゴルコンダ》。
ほか、《大家族》《白紙委任状》といった代表作群も
ダイナミックでたいへんすばらしい。
個人的には、《自由の入口で》と題された大作が気に入った。
いずれも濃厚で点数も多いので、
すべてをじっくり観るには、思いのほか時間がかかる。
これから観る人には、時間に余裕をもって行くことをおすすめしたい。


<展覧会オフィシャルサイト>
http://magritte2015.jp/

「ルーヴル美術館展」 [アート]

「ルーヴル美術館展」
日常を描く―風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄

2015年2月21日(土)~6月1日(月)
国立新美術館

今回の展覧会はルーヴルの名がつくものとしては
比較的小規模で、16世紀から19世紀のヨーロッパの作品を
約80点、展示している。
テーマは風俗画、いわゆる日常の生活風景を映す作品群だ。
フェルメールの《天文学者》が注目されているが、
それ以外は、特に名のある作品はほとんどない。

風俗画とカテゴライズされるのは、たとえば
商売をしている様子や街角の様子、
あるいは食事や休息の風景、狩りの風景などである。
主に市井の人々が営む普通の暮らしであり、
現代の私たちの日常に通じるところもあり、親しみやすい。
ヴァラエティ豊かな題材も魅力的だ。
全体を通してみると、
作中に登場する人物たちのリアルな姿や表情が目を惹く。

「すでに、古代において……」と題して
風俗画の起源をひも解くプロローグから始まり、
「労働と日々」「日常生活の寓意」「雅なる風景」
「日常生活における自然」「室内の女性」
「アトリエの芸術家」の6章にわたり、展開される。

「労働と日々」では、
さまざまな仕事を営む人物が描かれる。
なかでも興味深かったのは、《抜歯屋》と題する作品。
街かどで抜歯を行う職業の人がいて、
まさにそこで歯を抜いている。
抜かれている人、それをみている人の表情がひじょうにリアルだ。
さらには、みている人の財布を抜き取ろうとする人もいたり、
一枚の絵にいくつものドラマが展開されていて、
中世の暮らしぶりが垣間見える。

「日常生活の寓意」に分類される
フェルメールの《天文学者》は、ひっそりとした作品だが、
どこまでも繊細で、その描き込みに惹きこまれる。
人物よりも書物や天球儀、簡素な室内の様子なども
まるでフィルムに焼き付けたかのようにリアルに映し出される。

そのほか、悪辣な表情を見せる《徴税吏たち》、
ムリーリョの《物乞いの少年(蚤をとる少年)》、
《旅籠屋で休息する兵士たち》、《鹿狩り》、
レンブラントの《聖家族》、または《指物師の家族》などが印象に残った。

最後に置かれた「アトリエの芸術家」コーナーが興味深い。
自画像と思しき画家自身を描いたものもあれば、
猿を擬人化して描いた作品も2点あった。
模倣をする画家を揶揄して描いたものとされるが、
こうしたシニカルな作品には、画家の人間性が
よりあらわれているようで共感を覚える。

街の様子や服装、生活道具までことこまかに描かれ、
作品の生まれた時代背景や登場人物の社会的立場、
経済状況までも、みてとることができる。
さらには、人々のそばに犬が描かれている作品がことのほか多く、
いつの時代も犬が人間と生活を共にしていることが
分かり、うれしくなった。


ここ数年、都内の主要な美術館が
金曜日20時まで開館するようになり、大変ありがたい。
特に予定がなければ美術館に行くという選択肢が加わり、
時間の有効活用ができるようにも思う。
金曜日の芸術活動もなかなか楽しいものです。


<ルーヴル美術館展オフィシャルサイト>
http://www.ntv.co.jp/louvre2015/


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ウォーホル×のど飴 [アート]

味覚糖から、オモシロイものが出ています。

アンディ・ウォーホルの
アート缶のど飴。

全30種類というので、
近所のコンビニを探しまわり、
ようやく見つけたこの二つ。
IMG_1810.JPG


ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの
バナナがほしかったんだが……

中身はこんな、タブレット。
味はグレープとか、ミントとか。
IMG_1812.JPG

これぞまさしく、パブリック・アート。
芸術は大衆のもの、という岡本太郎の思想そのものである。

<味覚糖ホームページ>
http://mikakuto-nodoame.jp/

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