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「テリー・ギリアムのドン・キホーテ 」 [映画]

「テリー・ギリアムのドン・キホーテ 」
THE MAN WHO KILLED DON QUIXOTE
スペイン/ベルギー/フランス/イギリス/ポルトガル
2020/01/24公開
監督:テリー・ギリアム
出演:アダム・ドライヴァー、ジョナサン・プライス、ステラン・スカルスガルド

構想から約30年の時を経てついに公開された
テリー・ギリアム監督作品。
新聞の文化欄で公開情報を見たとき、思わず声を上げてしまった。
トラブル続きで頓挫した本作がついに完成したかと思うと感慨深い。

2000年秋、ギリアム監督は
長年あたためていた「ドン・キホーテ」の撮影にとりかかったが、
役者が降板したり、悪天候でセットが崩壊したりとトラブルが続出し、
撮影中止に追い込まれてしまった。その一部始終を追ったのが
2001年に公開された「ロスト・イン・ラマンチャ」だ。
この作品の、なんとも物悲しい雰囲気はいまでも心に残っている。
夢のあと、という言葉がふさわしいと思っていたが、
ギリアム監督は決してあきらめてはいなかったのだ。
未完の大作として終わるのではないかと思われていたが、
どうにか再開して完成にこぎつけたのが本作というわけである。


CM監督として活躍するトビーがスペインの田舎で撮影していると、
怪しい男からDVDを売りつけられた。それはなんと、
トビーが学生のときに製作した映画「ドン・キホーテを殺した男」。
そのロケ地が近くであることを思い出して、ふと訪ねてみたところ、
かつて映画で主役を演じてもらった靴職人の老人と再会した。
老人は自分をドン・キホーテと思い込んでいて、
さらにはトビーを従者のサンチョパンサと思い込み、
壮大な冒険の旅に出てしまうのだった。

その道中で、トビーは学生の時に出会った居酒屋の娘と再会する。
彼女は「女優になれる」というトビーの言葉を信じて芸能界に挑んだものの、
挫折してすっかりやさぐれた女になっていた。
また、旅の途中で出会ったご婦人は、仲間たちと岩山の影に隠れ住み、
貧しい暮らしを送っていた。
行く先々でさまざまな人たちや出来事に巻き込まれつつ、
老人とトビーは成り行きまかせのように歩んでいく。
その先に何が待ち受けるのかもわからず……。

荒唐無稽なファンタジーのようでありながら、
どこか現実味を帯びていて、せつなくもある。
それはもしかしたらギリアム自身の心情を映しているのかもしれない。
衝撃的な作品を世に送り出してきた監督も御年80だ。
さすがに、老いを感じずにはいられないだろう。あるいは
来し方を振り返って思うことがあるのかもしれない。
そうした過去への想いがドン・キホーテに投影されているようでもあった。

まずは、本作が完成したことがうれしい。
さらには、コメディ監督らしさも健在で
ひさしぶりのギリアム節を、ぞんぶんに楽しめた。

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「PK」 [映画]

第9回したまちコメディ映画祭in台東
「PK」
9/18(日)
上野恩賜公園 不忍池水上音楽堂


考えてみたら、今年に入ってから一本も映画を観ていなかった。
もう9月もなかばだというのに。いったい何してたんだろ。

というわけで、
友人(映画評論家)に誘われて久しぶりに観た映画はインド映画だ。
ひところのインド映画といえば、大人数のダンスシーンや
大げさなラブシーンが必ず出てくる、つくりが粗い作品が多かったが、
昨今のボリウッドは、だいぶ様子が変わってきたようだ。
脚本が緻密に練られ、ていねいにつくられた良作も多いとのこと。
今作は、スマッシュヒット作となった「きっと、うまくいく」の
監督と主演俳優のコンビネーション作の第2弾である。


宇宙からインドに降り立った青年は、
宇宙船を呼ぶためのリモコンを盗まれ、帰れなくなってしまった。
リモコンを取り返すためにはどうすればいいか?
人に尋ねたり自分で考えたりした結果、
神様に願えばかなうのではないかという思いに至る。
そしてあらゆる神様にお願いをするのだが、
願いがかなえられる気配はまったくない。
人々のすることにいちいち疑問を投げかける青年は
変人扱いされ、“PK”(酔っ払い)と呼ばれる。
そんなPKは、宗教の矛盾や人々のウソに
直球で切り込んでいき、それを面白く感じた
テレビ局の番組で、ヒンドゥー教の導師と対決することになる。
はたしてPKは無事に宇宙に帰ることができるのか……?

宗教というセンシティブなテーマを、
これだけのエンタテインメントに仕上げた監督の大胆さに感嘆する。
恋愛あり、ダンスシーンあり、さらには緊迫した社会情勢を
反映した場面もあり、あらゆる要素が盛り込まれているが、
トゥーマッチ感があまりないのは、中心に一貫したテーマが
どっしり据えられているからだろう。
しかしなんといっても、独特かつ愛嬌たっぷりの
PKのキャラクターが効いている。

PKが行く先々でかかわる人々との会話は
子供が大人の社会に投げかける疑問のように純粋で、
だからこそ大きな波紋を呼ぶのだが、それをきっかけに
さまざまな矛盾に気づく人々のリアクションもまた面白い。

壮大なスケールで始まったときは着地点がまったく見えなかったが、
最後にきれいに収まるストーリー展開が見事。
スカッと笑えて、最後にはホロリとさせる。
PKを好きにならない人はいないだろう、と思わせる
チャーミングな作品だ。

<公式サイト>
http://pk-movie.jp/


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「野火」 [映画]


「野火」(2014)
FIRES ON THE PLAIN
日本
7/25公開

監督:塚本晋也
製作:塚本晋也
原作:大岡昇平
脚本:塚本晋也
撮影:塚本晋也
出演:塚本晋也、リリー・フランキー、中村達也、森優作


本作は、大岡昇平の小説の映像化。
塚本晋也は20年前に映画化を企画したが、
資金の都合により、実現できなかったそうだ。
それでもあきらめずに思い続け、
このタイミングでの公開に至ったといういきさつに、
監督の強い意思がうかがえる。
戦後70年を迎えたいま、
戦争体験者は年々少なくなっている。
だからこそ、戦争の記憶をつないでいくこと、
忘れないでいることが大切なのだという
強いメッセージがこめられている。


太平洋戦争末期のフィリピン・レイテ島。
田村一等兵は肺を病み、野戦病院への入院を命じられるが、
病院で追い返され、再び部隊に舞い戻ってくる。
ところがそこでも厄介払いされ、行き場を失って
ジャングルをさまよい歩き始めた。

飢えに苦しみ、行く先を見失い、
ただその時を生きるために歩くうち、
田村は一部隊と巡り合い、同行することになるが、
その道は過酷で凄惨を極めるものだった。

攻撃を避けながら歩き続けるうちに
体力を失い動けなくなった人々、死んだ人々。
ほんの少しの食糧を分け合いながら、生き延びようとする人々。
充分な食料をもたない彼らを襲ったのは、激しい飢餓だった。
そのため彼らは生死をかけて仲間同士で争い、果ては
死んだ仲間の肉を食らってまでも生き延びようとする。
極限状況に置かれた人間の狂気。
そのすさまじさは耐えがたい。

空、海、ジャングル……。
田村が歩みゆくなかにインサートされる美しい風景が
凄惨な場面とコントラストをなし、強く印象に残った。
いつもと同じくそこにある美しい自然のなかで、
人間はなぜ、無意味な戦いを止められずにいるのだろう。

映像のインパクトは強烈だ。
心して観に行ったはずだけれど、
思った以上に衝撃を受けてしまった。
だけれど、本作を観ることができて良かった。
どんなことにせよ、知ることは大切だと思っている。


<オフィシャル・サイト>
http://nobi-movie.com/
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「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」 [映画]

「ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション」(2015)
MISSION:IMPOSSIBLE ROGUE NATION
8/7公開

監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、ジェレミー・レナー
   レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス
   ショーン・ハリス、アレック・ボールドウィン


「夏だから、夏休みっぽい映画を観るぞキャンペーン」真っ最中。
この時期に、いわゆるハリウッド大作が多くかかるのは、
暑いからあんまりアタマ使わない作品がウケるんじゃね?
ということなんだと思う。


イーサン・ハントとIMFの仲間たちは、謎のシンジケートを追っていた。
そんな折、IMFはCIAから解体を命じられる。
イーサンはシンジケートの実体を探るべく単身で動くが、
敵の罠にはまって拉致されてしまう。
そして彼に身の危険が迫ったとき、謎の美女イルサが現れ、助けてくれた。
イルサは敵か、味方か。そしてシンジケートの実体は――。

オープニングから、飛び立つ飛行機に張り付くという
スーパーアクションを披露するイーサン。
心身ともにタフでマッチョなところは相変わらずだ。
サービス精神旺盛で、ファンとしてはとてもうれしい。

アクションに関していえば、
カサブランカの街を舞台にしたスリル満点のバイクチェイス、
命がけの潜水シーンなどは見ごたえ充分だ。
スピーディーな展開に謎の美女が絡み、
男くさくなりがちな映像に華を添えているのもいい。

本作では、なんといってもイルサの存在感が効いている。
敵か味方かわからないミステリアスな雰囲気に加え、
ルックスがハッとするほど美しく、思わず見とれる。
ゴージャスなドレスに身を包んで
銃を構えるシーンの、なんとカッコよいこと!

美女が出てくると“007”ぽいけれど、
まったく色っぽい展開にならないのが、このシリーズの特徴ではある。
どちらかといえば、仲間との連携プレーに重きが置かれ、
なんとはなしに体育会系なニオイがするのは否めない。

ストーリーはそれほど複雑ではないので、
大迫力のアクションを単純に楽しめるのがいい。
50歳を超えても変わらずアクションを見せてくれる
トム・クルーズのファイトはすばらしい。

それにしても、こういう大作を観るたびに、
エンドロールに流れる関係者の多さに驚く。
一本の作品を作るために
どれほどの人間がかかわり、どれほどの時間をかけるのか。
観客を喜ばせるために気が遠くなるような
ディテールを積み重ねるクリエイターたちに、
敬意を感じずにはいられない。


オフィシャル・サイト
http://www.missionimpossiblejp.jp/
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「ジュラシック・ワールド」 [映画]


「ジュラシック・ワールド」(2015)
JURASSIC WORLD
アメリカ
8/05公開
監督:コリン・トレヴォロウ
出演:クリス・プラット、ブライス・ダラス・ハワード
   ヴィンセント・ドノフリオ、タイ・シンプキンス
   ニック・ロビンソン


完全に出来心で観に行った。
「ジュラシック・パーク」シリーズは
テレビでオンエアされているのをちらっと観たことがある程度で
ほとんど予備知識ないまま観たのだが、良かったのかどうか。

本作は、「ジュラシック・パーク」シリーズの第4弾。
コスタリカのイスラ・ヌブラル島にオープンした
恐竜テーマ・パーク“ジュラシック・ワールド”が舞台だ。
連日多くの観光客でにぎわうテーマ・パークでは、
遺伝子組み換えによって、巨大な新種インドミナス・レックスを創り出し
新たなアトラクションのために準備を進めていた。
そのインドミナス・レックスが脱走したことから、
パニックが起こりはじめる――。

さまざまな恐竜がワンサカ出てくる映像は迫力満点。
さいきんのCG技術って、本当に見事だ。
リアルな質感、スピード感とも
スリルがあってワクワクさせてくれる。

また、小型の恐竜をていねいに“飼育”してしつけるシーンや
凶暴な恐竜に攻撃された恐竜が
悲しそうな表情をみせるシーンなどをみると、
恐竜とコミュニケーションをとることができたら
楽しいのだろうな、とふと考える。
どちらかといえば、ドラえもんの発想なんだが(笑)。

ただ、残虐なシーンも結構多いので
お子様が観てよいものかどうか、ふと考えてしまう。
遺伝子操作で生み出した凶暴な恐竜を
戦闘マシンと表現するのもモラル的にいかがなものかと思うが、
素直に楽しければよいのだろうか。

なかでも面白かったのは、なんといっても、
巨大な恐竜の取っ組み合いだ。
迫力があるというより、単純にオモシロイ。
アトラクションとしては申し分ないのではないか。

個人的には2Dで充分。
3Dだったら、からだがもたなかったかもしれない。
ストレス解消にはふさわしい本作だが、
インパクトがかなり強いので、
心身ともに健やかなときに観ることをおすすめしたい。

<オフィシャルサイト>
http://www.jurassicworld.jp

ジュラシック・パーク [Blu-ray]

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  • 出版社/メーカー: ジェネオン・ユニバーサル
  • メディア: Blu-ray


ジュラシック・パーク アルティメット・トリロジー  [Blu-ray]

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「ターミネーター:新起動/ジェニシス」 [映画]

「ターミネーター:新起動/ジェニシス」(2015)
TERMINATOR:GENISYS
アメリカ
2015/07/10公開


監督:アラン・テイラー
出演:アーノルド・シュワルツェネッガー、ジェイソン・クラーク
   エミリア・クラーク、ジェイ・コートニー、イ・ビョンホン


本作については賛否両論あるだろう。
(いちおう)シリーズの5作目として、マンネリ感があるとか、
年をとったシュワルツェネッガーが登場するのはいかがなものかとか、
さまざまな意見があるに違いない。
だが、1作目からすべて
(テレビシリーズのサラ・コナー クロニクルズも含めて)
ウオッチしてきた私としてはやはり、見逃せなかった。

本作は2029年から始まる。
ジョン・コナー率いる抵抗軍が勝利を目前にした時、
機械軍は、ジョンの母サラ・コナーを抹殺するべく
殺人サイボーグ、ターミネーターを1984年に送る。
そして抵抗軍は、
それを阻止するためにカイル・リースを過去へ送った。
そこでカイルが目にしたものは、
自ら闘うサラ・コナーの姿と、それを守るT-800だ。
かよわい女子大生だったサラはなぜ戦士となっているのか。
そして、なぜT-800が彼女を守っているのか。
謎は明かされないまま、新たな謎が投入される。
カイルが記憶する2017年の出来事とは――。

約30年前に公開されたときの場面をなぞりつつ、
過去を書き変えたことによって生じたズレを見せていく。
新たな展開を忙しく追いながらも、
おなじみの場面や懐かしいせりふに、ふっと和む。
年をとったシュワルツェネッガーが
自虐的な言葉をはさむのもご愛嬌だ。

過去作品に比べると
キャストのインパクトが弱いのはたいへん残念だが、
思っていたよりも楽しめた。
個人的には液体金属のT-1000が大好きなので、
再び見ることができてうれしい。

本シリーズは、2作目で一度完結していると考えている。
3作目はまったく別物、4作目は前日譚、あるいは外伝のようだ。
この5作目では、新たなシリーズに突入したのではないか。
過去シリーズの時間軸でのストーリーは収束し、
それとは異なる時間軸、いわゆる
パラレル・ワールドでのストーリーが始まった。
災厄は葬ったように見えるが、大きな謎が残されている。
サラ・コナーのもとへT-800を送ったのは何者だろうか。

次回作を期待してしまうが、
たいへん複雑化したストーリーを
収束させることができるのかが気になる。
もはやエンドレス。
あるいはライフワークに突入してしまったのだろうか……。

<オフィシャル・サイト>
http://www.terminator-movie.jp/

「グローリー/明日への行進」 [映画]


「グローリー/明日への行進」 (2014)
SELMA
アメリカ
6/19公開

監督:エヴァ・デュヴァネイ
出演:デヴィッド・オイェロウォ、トム・ウィルキンソン
   カーメン・イジョゴ、ジョヴァンニ・リビシ
   ティム・ロス、オプラ・ウィンフリー、コモン


本作は、1965年3月、アメリカのアラバマ州セルマで起こった
血の日曜日事件を題材に、
マーティン・ルーサー・キングJrの闘いを描く。
1988年、「ワールドアパート」
「クライフリーダム」(邦題は「遠い夜明け」)など
アパルトヘイト関連の映画が相次いで公開。
また、1992年には「マルコムX」が公開されるなど、
黒人差別問題に関する映画は一時期とても多くみられた。
しかし、キング牧師の生涯を描く映画は今まで一度も作られなかったそうだ。
血の日曜日事件から50年後の本年、初の映画化となる。


ノーベル平和賞を受賞したキング牧師は、
有権者登録を妨害するアラバマ州での抗議運動に注力していた。
州知事は極端な差別主義者であり、運動は難航を極める。
そんななか、選挙権を求めた人々が
セルマから州都モンゴメリーまでデモ行進を行うが、
警官隊による凄惨な暴力によって制圧されてしまった。
血の日曜日事件である。
そのようすはテレビなどで報道され、全米を揺り動かす。
キング牧師が再びデモ行進を行うため、呼びかけたところ、
人種の壁を越えて全米からさまざまな参加者が集まってきた。
そして群衆は再び、選挙権を求めて歩み始めるのだった――。

本作で描かれるのは、1963年の教会爆破事件から
1965年8月に投票権が成立するまでの一時期である。
ジョンソン大統領の働きかけにより、
1964年に公民権法が制定されたとはいえ、
その後も黒人差別はまったく収まっていなかった。
差別感情の強い南部ではなおさらである。

人種差別の歴史は根深く、簡単には排除できない。
それを非暴力で成し遂げようとした
キング牧師の苦悩は並大抵ではなかった。
運動を進めるため、人々を守るため、そして家族を守るために
ひとりの男として、父親として、牧師として、葛藤を繰り返す。
そうした姿が描かれるにつれ、
キング牧師の人物像がしだいに浮き彫りになってくる。
センセーショナルな事件を題材にしてはいるが、
ここで描かれるのは、そうした最中に苦しみ抜いた人間の姿だ。
史実をひもとくだけでは見えてこないキング牧師の素顔が新鮮だ。

キング牧師のスピーチの場面は圧巻。
なかでもやはり、ラストのスピーチはすばらしかった。
全身を傾ける情熱と言葉の力が心に響く。

人々の心を動かし、社会を変えたキング牧師の軌跡にふれるとともに、
いまだに世界中で廃絶できない人種差別の根深さを思わずにいられない。

<オフィシャルサイト>
http://glory.gaga.ne.jp/
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「ジミー、野を駆ける伝説」 [映画]


「ジミー、野を駆ける伝説」 (2014)
JIMMY'S HALL
イギリス
2015/01/17公開

監督:ケン・ローチ
出演: バリー・ウォード、シモーヌ・カービー
    ジム・ノートン、アンドリュー・スコット

一貫して労働者階級や移民を取り上げてきた
ケン・ローチの最新作は、
実在した活動家ジミー・グラルトンの生涯を描く。

1932年、アイルランド独立戦争から10年ほど経過し、
ジミー・グラルトンはアメリカから故郷の農村へ帰って来た。
彼は老いた母とともに、穏やかに暮らすつもりだった。
ところがそこへかつての仲間たちが集まり、
以前にジミーが建設したホールを復活させてほしいと懇願する。
ホールとは小さな建物で、農村の人々が
ダンスや音楽、文学や絵画などを楽しむ施設だった。
ジミーの帰還によって、
今ではすっかり寂れて閉ざされたホールがまた
開かれることを人々は心待ちにしていたのだ。
はじめは断っていたジミーだったが、
楽しかった時代を思い出し、再開することを決めた。
また一からはじめ、人が集まりだし、
彼らにようやく笑顔が戻りつつあった頃、
教区の神父がやってきて、
ホールの活動を共産主義に通じるものとして禁止しようとする。
政治的圧力に屈辱を覚えた彼らは、
できる限りの抵抗を試みるのだった……。

緑濃い農村風景とそこで営まれる素朴な暮らし、
かつての恋人や仲間との再会、
ホールでの楽しいひとときなど、
そのすべてが温かくてしみる。
そうした生活こそが最も人間らしいのではないかと思う。
ジミーが恐れたのは、そうした暮らしが失われることではなかったか。
村に訪れた幸せな時間は
理不尽な力によって奪われようとするが、
複雑な世情に翻弄されようとも、彼らの魂は屈しなかった。

ケン・ローチの作品は、
どんなに深刻な状況や切実な思いを描いても、
決してウエットにならず、爽やかな印象を残す。
権力に立ち向かう人々が絶望的な状況にあっても
悲しみにくれることなく、一筋の光を見いだして
心の底に希望を持ち続けているからだろう。

今作も例外ではなく、
決してハッピーエンディングとはいえないのだが、
温かくて爽快なラストを迎えた。
少年少女たちのひたむきな思い、
またそれに応えるジミーの誠実さに胸を打たれる。


<オフィシャルサイト>
http://www.jimmy-densetsu.jp/
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「アンダーグラウンド」 [映画]


「アンダーグラウンド」(1995)
UNDERGROUND
フランス/ドイツ/ハンガリー
1996/04/20公開


監督:エミール・クストリッツァ
原作:デュシャン・コバチェヴィッチ
脚本:デュシャン・コバチェヴィッチ、エミール・クストリッツァ
音楽:ゴラン・ブレゴヴィッチ
出演:ミキ・マノイロヴィッチ、ミリャナ・ヤコヴィッチ
   ラザル・リストフスキー、スラヴコ・スティマチ
   エルンスト・ストッツナー、スルジャン・トドロヴィッチ


観たい映画リストにずっと入れっぱなしになっていた作品。
どういうわけか今まで探していてまったく見つからなかったのを、
ふと帰りに寄ったTSUTAYAで発見したのだ。
なにか、呼ばれてしまったのだろうか。


パルチザンに参加したマルコは、激しくなる戦乱を逃れるため、
自分の家族や相棒のクロの妻などを
自宅の地下室にかくまった。
そうして地下にいる人々には武器をつくらせ、
マルコは武器商人になる。
やがて戦乱がやんでもマルコは地下の住民たちにそのことを告げず、
地下の住民たちはひたすらそこでの生活を謳歌する。
そうしてある日、“外”に出た彼らは気づくのだ。
もはや、そこにはユーゴスラヴィアはないと……。

真実なのか、ファンタジーなのか。
ストーリーが進むにつれ虚実入り混じり、
何がほんとうのことなのか判断がつかなくなるが、
たった一つの真実は、
かつてユーゴスラヴィアがあったということ。
彼らの祖国があったということだ。
近現代において、これほど波乱に満ちた
背景をもつ国はそうはないだろう。
悲劇、とひとことで言ってしまえばそれまでだが、
そこに暮らす人々がいたことによって、
それはシニカルなユーモアをはらみ、
喜劇要素が生み出される。

追いつめられた状況に陥ると、思わず笑いが生まれることがあるが、
この作品はそうした状況を
長大な時間をかけて表しているようにも思える。
ファンタジーと相反する現実の苦さと滑稽さを
壮大なスケールで映し出す。
じつはそうした手法が最も、人の人生を描くのに
適しているのではないだろうか。
友情、愛憎、人生への絶望と希望……
人が生きるうえでもちうるさまざまな感情が、
時代の大きなうねりに呑みこまれそうになりながらも
確かな輝きを放つ。
まるで、そこに生きた人々の証を刻むかのように。

作中もっともファンタジックなラストシーンで、
「許すが忘れない」というせりふがある。
このひとことに、まさにユーゴスラヴィアに暮らした人々の
思いが凝縮されているようで心打たれた。

映像の美しさ、ストーリーの巧みさに、
3時間と言う長丁場を忘れる。
ずっとこの映画の世界に浸っていたいとさえ思ってしまった。
カルト的な名作と位置付けられているようだが、
もっと知られてもいい作品なのではないか。
印象的な場面を思いだすだけで、胸が熱くなる。
もしかしたら、この先何度もこの映画を観返すことになるかもしれない。

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「アナと雪の女王」 [映画]


「アナと雪の女王」 (2013)
FROZEN
アメリカ
2014/03/14公開

監督:クリス・バック、ジェニファー・リー
原案:アンデルセン『雪の女王』
音楽:クリストフ・ベック
声の出演:クリステン・ベル、イディナ・メンゼル
     ジョナサン・グロフ、ジョシュ・ギャッド

ディズニーアニメを観るのは、
「塔の上のラプンツェル」(リンクはブログ内の記事)以来。
キャラクターものにはあまり興味はないが、
プリンセスものはわりと好きだ。
アカデミー賞で主題歌賞を獲得した歌がとても良かったこともあり、
2D字幕版を観ることにした。


北国アレンデールの王の娘エルサとアナは仲の良い姉妹だった。
エルサは生まれつき、触れたものを凍らせてしまう
魔法の力を持っていて、アナと遊んでいるときに
トラブルでアナを危険な目に遭わせてしまう。
エルサはその後、力をコントロールできるようになるまで
何年も部屋に閉じこもることになった。
エルサとアナはそのまま顔を合わせることなく成長していく。
そんなあるとき国王夫妻が海の事故で亡くなり、
エルサは女王として王位を継ぐことになった。
戴冠式のパーティーでエルサは
力をコントロールすることができず、
魔法の力を持つことを知られてしまう。
そしてひとり北の山へと向かい、
氷の宮殿を築き上げ、閉じこもった。
エルサの魔法で凍りついた王国を救うため、
アナは北の山へと向かう――。

冷たく危うい氷の描写がまず素晴らしい。
アニメーションの表現力は、
いったいどこまで進化するのかと思わずにいられない。
リアルであると同時にファンタジックで、
冒頭から思わずぐっと惹きこまれる。
雪山や海、城といった
風景はもちろん、人物描写も魅力的だ。
アナとエルサの子ども時代、
愛嬌たっぷりのトロールたち、
雪だるまのオラフやトナカイのスヴェンなど、
メインでないキャラクターまでじつによく描かれている。

音楽に関しては、
エルサが雪山に向かいつつ歌い上げる「Let it go」をはじめ、
劇中で歌われる楽曲がどれも印象的で耳に残る。
というか、耳について離れない。
さすが、ディズニーの底力。
なかでも、雪だるまのオラフの歌がチャーミングで気に入った。

本作のメインである映像と音楽を、
ストレスなく楽しめるように、
ストーリーはとてもシンプルにまとめられていた。
エルサの凍った心を溶かすのも、
凍った王国を救うのもまた“真実の愛”であるということ。
普遍的なメッセージであるからこそ、観る者の共感を呼ぶ。

王女であるにもかかわらず、
やんちゃで無鉄砲なアナの人物設定も良かったのではないか。
笑顔一つ見せないエルサとの対比が効いていたと思う。

吹き替え版では、
エルサを松たか子、アナを神田沙也加が演じ、歌も歌っている。
松たか子の「Let it go」がまたすんばらしいので、こちらも観てみたい。


<オフィシャル・サイト>
http://www.disney.co.jp/movies/anayuki/
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