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『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』  [本]

『辺境メシ ヤバそうだから食べてみた』 高野秀行 著

どれほど危険でも、先が読めなくても思いのままに突き進んでゆく
著者の体当たりルポをいつも楽しみにしている。
そんな高野さんが今回チャレンジするのは、“食”である。
ただし、高野さんがとりあげるといえばただではすまない。
ちょっと変わった、なんて言葉でも言い表せない。
本書に登場するのはいうなれば“寄食”“珍食”の数々だ。
どれどれ、と目次をめくってみたが、
オエエエ、と思わずぱたんと閉じてしまった。
しかし、巻頭のグラビアには、著者が実においしそうに食べる姿が!
その笑顔を信頼して、本編に挑んでみた。

最初の章はアフリカ。
著者がコンゴにムベンベ探しに行ったときに食べた
ゴリラ肉のエピソードから始まる。
持参した食料を食べつくしてしまったため
地元の村人の食習慣にならってゴリラの肉を食べてみたが、
筋肉が発達しているため、非常に固かったという。
臭みはなかったものの、食べづらく難儀したようだ。
さらにはチンパンジーも狩って食べたという
ワイルドな食体験が著者の珍食歴のスタートを飾った。
……というくだりは、『幻獣ムベンベを追え』に詳しいので
高野ファンの皆様には特に衝撃はないだろう。
わたしも同じくフムフムと納得したが、それはあくまでも序章だった。

ひきつづき、南アジア、東南アジア、日本、東アジア、
中東・ヨーロッパ、南米と紹介されているのだが、
なかでも凶悪なのは東アジアの中国と南米だ。

中国で登場するのは、
ムカデやタランチュラ、サソリといった虫の盛り合わせとか、
ヤギの胃の中のもののスープとか、人の胎盤の餃子とか、
聞くだけで気持ち悪いものばかり。
よくそんなの食えるなあ、と思うのだが
著者はいつでも恐怖心よりも好奇心のほうがはるかに勝ってしまうのだ。
そして現地の人が手を出さないものまで口にして、自分の舌で確かめる。
高野さん、やっぱりすごいよ!
わたしもわりとなんでも食べるほうだが、読むだけでも無理だと思ってしまう。
それでも読むのをやめられないのは、
著者が次に何に挑むのか気になって仕方がないからだ。

本書のクライマックスは、南米大陸だ。
サブタイトルに“魔境へようこそ”とあるが、
衝撃的な食材のオンパレードである南米は、まさに魔境……。
巨大魚ピラルクなどまだ序の口で(すごくうまそう!)、
ヒキガエルをはちみつや果物、ラム酒と一緒に
ミキサーにかけたヒキガエルジュース(オエエエ)、
さらには穀物を唾液で発酵させて作る(!)「口噛み酒」というものまであるのだ。

「口噛み酒」の作り方は原始的な方法で古代には世界中にあったそうだが、
現代ではアマゾンの上流部にしかないと知り、著者はわざわざ調べに行ったのだ。
作り方を見学すると、それは大変な重労働だった。
マッシュ状のキャッサバを口に押し込んでまんべんなく噛み、
鍋の中に吐き出す、という工程をひたすら繰り返す村長夫人の姿に
著者一行はあぜんとする。しかし、そうしてできあがった
「口噛み酒」を日本に持ち帰って飲んだところ、
飲みやすくておいしいとの評判を得た。
何事も、やイメージで物事を判断してはいけないということか。

どうしてもグロい食のほうがインパクトがあるので紹介したくなるのだが、
なかにはおいしそうなものもある。
タイの爆発ナマズ、ミャンマーの納豆バーニャカウダ、
韓国のタコ躍り食い、イラクの鯉の円盤焼きなどは
作る工程も味の描写もとてもおいしそう。なんといっても
著者のワクワク感が伝わってくるのだ。
おいしいかどうかわからないのにわざわざ食べに来たものが
抜群においしかったら、そりゃうれしいだろう。

自分で確かめないと気がすまないから、
どこにとびきりのネタがあるかわからないから、
著者は誰も知らないような秘境を探し、追求していくのだ。
その探求心にわたしはあこがれる。
著者が目指す次の秘境はなんだろう。
誰も知らない事象や話題を追い求める着眼点に期待したい。


辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2018/10/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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「ムンク展―共鳴する魂の叫び」 [アート]

「ムンク展―共鳴する魂の叫び」
2018/10/27(土)~2019/1/20(日)
東京都美術館

ムンクの作品を初めて直に観たのは、
2007年に西洋美術館で開かれたムンク展だった。(リンクは本ブログ内の記事)

それ以来、久しぶりの鑑賞を楽しみにしていたが、
意外な混雑に驚いた。
「叫び」が有名とはいえ、地味で陰鬱なイメージの強いムンクが
これほど人気だとは思いもしなかった(失礼)。

今回の展示は、代表作「叫び」をはじめとする約60点の油彩画を含む
約100点を展示するという充実したものだ。
「ムンクとは誰か」に始まり、家族、魂の叫び、
男と女、風景、晩年に至るまで画家の全容に迫る。

会場に入るとまず目に入るのが、自画像とセルフポートレイトの数々。
どこを見ても、画家自身の姿が映るという自己愛に満ち満ちたコーナーだ。
ムンクといえば内面世界を表現した作品が多いが、
状態の良い時も悪い時も自分自身を見つめ、
そこから沸き起こる感情に材を取っていたのだろうと思わせる。
そうして描かれた作品群は着想を得て生み出されたというより、
衝動の赴くままに生まれてきたようである。
また、誰もが持ちうる普遍的な感情を表しているからこそ、
観る人たちの心をとらえるのではないか。

なかでも興味深かったのは、《接吻》や《吸血鬼》《マドンナ》など、
同じ題材でいくつも作品を描いているところだ。
少しずつ違うのだが、モチーフ、構図もほとんど同じだ。
何が違うのかといえば、おそらく作品に向かった時の作家の心象だろう。
カラフルになったり、彩度を欠いたりするのは、
その時々の感情が表れているからではないか。
そう考えると、ムンクはずいぶん正直な人なのだ。
とくに前述した《接吻》などは、
愛する人と一体化したいという
切なる望みを表しているようで親しみが感じられ、
ムンクの人柄にふれるようでもある。

今回の目玉である代表作《叫び》は、
たしかに圧倒的な存在感を放ち、ひときわ注目を集めていた。
不安をあおる表情、赤くうねる空、後ろを流れる川も
同様に激しくうねり、人物の感情とそれを取り巻く世界がすべて
うねうねと動き続けているかのようだ。
人物の腰と川が同じ角度にうねっているのが、
どことなくユーモラスでもある。

不安や人間の本質を描きつづけた画家の中心にはいつも、
母と姉という身近な存在を早くに亡くした経験からくる
深い孤独があった。
繊細な気質ゆえ、晩年は精神的に不安定な状況に陥ったが、
そうした人だからこそ、このような世界の見方ができたのだろうと思う。
暗く陰鬱に見える画面のなかにも、
希望に至る光をひとすじ描く。
創作活動を通して自身の精神を救おうとしていたのかもしれない。

「叫び」があまりにも有名なため、
どうしても注目が集まるが、それ以外の作品もたいへん興味深い。
じっくり眺めるほどにムンク作品の本質が見えるように思う。

気が付けば、会期もあと少し。
迷っている方、年末年始にぜひどうぞ。

<東京都美術館ホームページ>
https://www.tobikan.jp/

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近況報告 [もろもろ]

繁忙期を抜けたのでブログをまとめてアップするつもりなのだが、
年末ゆえ、宴会続きでこれまた時間がとれない。

というわけで、ひとまず
最近のスナップを上げておこう。
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銀座エルメス

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二子玉川ライズのツリー

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多摩川より、富士山。冬の夕暮れ
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