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栗原由子さん 日本画展 [アート]

栗原由子 日本画展
―わたしの四季―

竹ノ塚の駅を降りて、ザ・下町といった親し気な雰囲気を醸す商店街を抜け、
住宅街の方面へと向かうと、ひっそりとした日本家屋にたどり着いた。
端正にととのえられた庭園を擁する「昭和の家」は、
昭和14年に建てられた民家であり、国の登録文化財に指定されている。
年月を経ていても隅々に至るまで手入れがされていて古びた感じがなく、
ゆったりとした時間が流れている。
町の喧騒から離れた空間に足を踏み入れると、
栗原由子さんの作品群が温かく出迎えてくれた。

「わたしの四季」と名付けられた作品群は、
例えば山を描くダイナミックなものから庭園に置かれた石に至るまで、
植物や石など自然に材をとっている。
一見して、その色数の多さとスケール感、そして緻密な筆の運びに驚かされる。
栗原さんの作品は主に野菜や樹木など自然をテーマにしたものが多い。
そうした自然の織りなす造形に惹かれるのだそうだ。
また、場所からヒントを得ることもあるのだという。
今回の個展の開催が決まってから描いた作品は、
庭を題材にしたとのこと。
庭は手入れが行き届いていて、それだけで完成された空間であるから、
そのものを描くのではなく、例えば石や松の木など、
視点を変えて一部に注目したのだそう。
そうして完成したのが
今回のメイン作品《Petrichor–ペトリコール–》をはじめとする作品群である。
 
 
山の遠景を描いた作品はそのスケール感がすばらしい。
以前、別の会場で見たときには大作という印象が強かったが、
日本家屋の床の間に置かれると、場にピタリとはまっていて、
その色彩がまわりの環境にしっくりなじむ。
そうして、じっくり見るうちに細部が際立ってくるように感じる。
作品の魅力のみでなく、環境も含めての見方を提示される。
すなわち、絵はどこかに置かれて人に見られて初めて完結するものであり、
所有者や見る人の心理状況や背景によって変化するものではないかという思いがする。

今回の個展で初めて栗原さんの作品を観た人は、
元からその場所にあったものと思うかもしれない。
それほど、日本家屋という背景にごく自然にはまっていた。
床の間や調度も、絵を引き立てる額縁であるかのよう。
別の場所で彼女の作品群を観たことのある私には、
作品自身が飾られる場所を選んだかのように感じられた。

野菜や魚など、身近なものに材を取り、独特の色彩で描き切る。
そうした作品は、遠目で見ても、その魅力すべてにふれることはできないだろう。
というのは、栗原さんの絵の特徴は、緻密に描きこまれたディテイルにあるからだ。
なぜ、山や野菜などがこれほど鮮やかな色彩になるのか、と尋ねてみると、
こういう色に見えるのだと語ってくれた。
色とりどりの絵の具を隙間なく塗り込めた作品を観るにつれ、
しだいに確固とした世界が浮かびあがってくる。
それは例えば野菜やくだもののもつ生命力や、自然が織りなす表情豊かな風景だ。
そうしたものたちを見つめる栗原さんの視線は鋭く、そして優しい。
創作の対象となるものたちへの愛情が画面全体に感じられる。
その美しさをどう表現するか、自分の目に見えるものをどう伝えるか、
おそらく日々、心を砕くのだろう。そうして生まれた作品群を見て、
そのものたちの美しさに初めて気づき、感嘆する。
創作であると同時に、自然の美しさを再発見するきっかけを与えてくれる。
そんな魅力あふれる栗原由子さんの創作の源泉に迫る思いがした。

2年に一度のペースで開く個展に向けて、30点ほどの新作を制作するという。
制作期間の前半は主にスケッチに力を注ぎ、
そこから作品に仕上げるものを選ぶのだそうだ。
毎日描いても追いつかないほど題材はあふれているという。
日常的な制作を通じて、着実に作品を積み上げていきたいと語る栗原さんは、
その視線の先に何を見つめているのか。
これからも生み出され続ける作品をワクワクしながら待っていたい。
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<栗原由子さんホームページ>
http://yuko-kurihara.com/


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