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『煙か土か食い物』 [本]


『煙か土か食い物』  舞城王太郎 著


年があらたまったというのに、何の新鮮味もなく、
心構えはちっともシャンとしてこない。
それはもしかしたら、記憶する限り初めて
おみくじで「凶」をひいたからかもしれないし、
昨年12月に祖母が亡くなったため
喪中の正月を迎えたからかもしれない。
意外にも、影響されやすく打たれ弱いのだ。

なんかこう、パッとしない年初なのですよ。
今年のテーマでも考えようとしたところ、
思い浮かぶのは「経費削減」とか「早寝早起き」とか、
なんだかショボイことばかり。
そんなこんなでふと思いだしたのは、昨年の読書目標100冊だ。
結局到達せず73冊に終わったので、
今年こそ100冊読んでやろうじゃないかと一念発起。
ということで、年末から読みかかっていて
年明け一発目に読了したのが、この一冊だ。


本書は、以前取材させていただいた書店員の方に教えてもらった。
舞城王太郎の名は豊崎由美氏が絶賛していることと、
素性をまったく明かさないことによって知っていたが、
著作を読むのは初めてで、自分のなかで勝手に思い込んでいた
イメージと大きく違ったことに驚いた。

著者の出身地でもある福井のとある街に起きた
連続殺傷事件を発端にストーリーは進むのだが、
トリッキーなミステリーだと思って読みはじめたら、
あらら、まったくアテがはずれていた。
特に、ひっぱって読ませる謎など存在しないし、
どちらかというと家族とのかかわり、
あるいはその間にある葛藤を、
ひじょうに情緒的に、ときに逆上しつつ
主人公の目線で語っていく。

四兄弟の末っ子である主人公、四郎の語りは
シニカルではあるがド直球で、
時折うっとうしいほどに家族への屈折した感情を吐露する。
そのくせ、自分が優秀な医師であることを充分すぎるほど自覚し、
女にもてることを当然のこととして受け止めている。
決して好みではない、イヤミな男である。

暴力シーンが激しく痛々しいため、
メンタルもマッチョなのかと思いきや、そうではなかった。
四郎は、事件の真相を探るうちに浮かび上がる
自分と父親、兄弟たちとの
お互いを傷つけ、振り回しまくる関係から遠ざかりたいのに、
自ら核心に迫り、真実を知ることで自らの神経をひりつかせているのだ。
そんな四郎のひどく神経質な内面が
徐々に明らかになるにつれ、この人が嫌いではなくなっていた。

福井なまりで語られるリズミカルな文体に
ぐいぐい引っ張られる感じは決して悪くない。
どこの家族にもある“ちょっとした事情”を
大仰に表現したらこうなっちゃった、という感じは、
旺盛なサービス精神をうかがわせて、ほほ笑ましい。

人を喰ったような文章ではあるが、
家族という関係に横たわる、複雑で決して逃れられない
濃厚なつながりを、リアルに表現している。
この作品は著者のデビュー作にあたるが、完成度はかなり高いといえる。
今までスルーしていた作家だが、他の作品もチェックしてみたくなった。
舞城王太郎、この名を覚えていて損はないだろう。



煙か土か食い物 (講談社文庫)

煙か土か食い物 (講談社文庫)

  • 作者: 舞城 王太郎
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 文庫



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コメント 4

ミホ

年間73冊もかなりスゴイと思うんですけど~!
わたしは、幸か不幸か通勤時間が長くなったので、もう少し本を読む時間ができるような気がします。lucksunさんほどではないですが、わたしも今年はなるべく冊数を増やしたいな~と思います。
by ミホ (2009-01-12 10:42) 

lucksun

>ミホさーん
いやー、なんだか毎年100冊を目標に読み始めるんですが、
年の後半になると必ず失速してしまうんですよね(笑)。
通勤時間はたしかに貴重な読書時間です~~。
冊数を稼ぐよりも、面白い本と出合うほうが意味があることは
わかるんですが、やはり読んでみないとわかりませんから、
結局、手当たりしだいに読むことになっちゃいます。
今年も心に残る本を発見できるといいなーと思っております。

by lucksun (2009-01-13 23:34) 

bluebird

今年も lucksun さんを頼りに読書していきます(笑)

by bluebird (2009-01-16 10:48) 

lucksun

>bluebirdさん
いわゆる話題の本ではなくて、自分の好みにあった本を
これからも細々と紹介していくつもりですので、また遊びに来てくださいね♪
by lucksun (2009-01-18 00:44) 

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