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『赤朽葉家の伝説』  [本]

『赤朽葉家の伝説』  桜庭一樹 著

桜庭一樹という作家、
写真を見ると若そうだし、ライトノベル出身ということで
今まで何となく避けて通っていた。
ところが、本書が地方の旧家の三代にわたる物語であると聞いて
ガルシア・マルケスの『百年の孤独』がふと頭に浮かび、もしやと思った。
『百年の孤独』とは、南米の地を舞台に、
一族の連綿と続く記録を史実をひもとくように
延々と描きつづる濃密な長編小説だ。
かくいう私は『百年の孤独』をきっかけとして
ガルシア・マルケスに夢中になったクチなので、
この本は期待できるのではないかと手に取ってみたら、
なんと、めちゃくちゃおもしろいではないか!

読後、作家のプロフィールを調べて納得がいった。
彼女は無類の読書家で、海外文学を中心に相当の冊数を読むという。
その中に、もちろん『百年の孤独』もあった。
しかも、やはり『赤朽葉家の伝説』の発想の原点としてあるらしい。
なるほどわたしの趣味に合うはずだと納得がいった次第である。

本書は、鳥取のとある村を舞台に、
製鉄を営む旧家“赤朽葉家”に嫁いだ万葉(まんよう)を
はじめとして、その娘である毛毬(けまり)、
孫の瞳子(とうこ)の代にわたるまで
それぞれの時代に起きた事柄を瞳子の視点からドラマティックにつづる。
万葉は、今ではいわゆる“サンカ”と呼ばれる山の人であり、
子どもの頃に製鉄の職工である多田の家にひろわれ育つ。
万葉は未来を視ることができる不思議な力をもち、
そのことは物語を解く大きなカギとなる。
あることをきっかけに赤朽葉家に嫁いだ万葉は、
嫁として子どもを産み育て、家族に尽くしたが、
彼女とその家族“赤朽葉家”には、果たして
尋常ではない出来事が次々と起こるのだった。

まず、第二次世界大戦後から現在に至るまで、
社会、経済、風俗などなど時代背景をよく調べてある。
その当時の世相と、舞台である地方都市の様子は
映像を喚起させるほど緻密に描かれ、
そして“赤朽葉家”周辺の人々に関しても、
表情まで伝えようとするかのごとく、その特異な人物像を描きこんでいる。
これだけの長編であれば、ましてやディテールを描きこめば
途中で息切れするのではないかと思われたが、
力強い筆致は勢いをそぐことなく、むしろ物語としての厚みを増し、
祖母、母、娘と時代が下ってくるにつれ、
一族にまつわる影の部分は読むほどにじわじわと大きくなっていく。
万葉が視たものとは何だったのかが明らかになるのは最後の章である。
調査と考察を繰り返して結論を出したのは、万葉の孫、瞳子だった。

“赤朽葉家”を取り巻く人々の強烈な個性、
また一族に起こる波乱に充ち満ちた出来事は
ファンタジーのようでもあり、
実際に起こったことであるかのような錯覚も起こさせた。
古来から神話の息づく土地の特性を存分に活かし、
そこに根を下ろした人々を色濃く、生き生きと描いた物語である。

著者の筆力と構成力に驚かされ、
本書以外の著書も読んでみたいと思わされた。
今まで食指がのびなかったのが、少しばかり悔しい。
こうなったら、著者の過去作品をさらってみよう。
秋の読書は桜庭一樹からスタートだ。


赤朽葉家の伝説


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