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桜咲く季節に、何思ふ [マンガ]

『櫻の園』 吉田秋生 著

この時期になると、必ず読みたくなる。
そうして何度も読み返しているけれど、
そのたびに、このマンガの濃密な空気に圧倒される。

満開の桜の下には死体が埋まっている、と言ったのは誰だったか。
華やかさに目を奪われてばかりいるが、
その陰には陰うつな何かが隠されているということか。
『櫻の園』の舞台となる女子高には、
この言葉がぴったりとくるような気がする。

桜の花びら散るキャンパスで繰り広げる彼女たちの日常には、
女子高生特有の若さゆえの残酷さ(自分も、他人も)、
十代の女の子のウツウツとした気分が緩慢に流れている。
自分が通り過ぎてきたからこそ共感できる状況が、
吉田秋生ならではのシャープな視線で、
きわどい輪郭をなぞるかのように繊細に描かれる。
少女マンガには珍しいシャープでシンプルな絵が
におい立つような女子高生たちの世界を淡々と見せる。
そのアンバランスさに、思わず惹きこまれてしまう。

恋愛や受験、友達、家族との関係、
彼女たちの思考には統一性なんてものはなく、
ほんとうに多様である。
現代の情報社会をふらふらさまよううちに
私がなくしてしまったものがすべて残されているかのように。

吉田秋生のマンガは好きだ。
『BANANA FISH』『夜叉』『イヴの眠り』
『ラヴァーズ・キス』『吉祥天女』……。
今まで読んだ作品を通して見ると、
どれも現実に起こりえないが、
やけに緻密な状況設定に裏打ちされた世界を描くものばかりだ。
そして、主人公はいつもひりつく神経をむきだしにしたまま、
立ちはだかる問題にぶつかっていく。
強くて脆い、やさしくてしたたかな人間の深い部分を
こんなにていねいに描く作家は稀ではないだろうか。
『櫻の園』には非現実感はないものの、
女子高生たちは、彼女たちなりのギリギリの問題を抱えている。
吉田秋生は、そんな心の揺れをうまく表現している。

中原俊監督の映画もすばらしかった。
見たものを射抜くような女優たちの強すぎるまなざしが印象的だった。

夢うつつのような花あらしの下、
いまの女子高生は何を思うだろうか。
時代は変わり、女子高生も変わるが、
もしかしたら思うことなんて、あんまり変わらなかったりして。




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コメント 2

こんばんは、lucksunさん。
『櫻の園』はいくつになって読んでも切なくなってしまいますね。
作中のユーミン(荒井由美名義も含む)の曲も効果的過ぎる位に
あってますよね。映画は見てないのです。
私も『イヴの眠り)以外はみんな持ってます。
lucksunさん、吉田さんの人間の描写の表現がうまいです!
by (2005-04-06 23:49) 

lucksun

こんばんは。
kanonさんも『櫻の園』ご存知でしたか〜。
そうそう、せつなさがいいんですよね。
映画もまた、独特の雰囲気がすてきなのです。
つみきみほ(懐かしい!)がすごくいい芝居をしていますよ。
女子高生の世界って、自分も経験したはずなのに、
なんとなく今でもうらやましく思っちゃったりします(笑)。
by lucksun (2005-04-07 01:57) 

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