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『明るい夜に出かけて』 [本]

『明るい夜に出かけて』 佐藤多佳子 著


本作を知ったのは、やはり
FMヨコハマの「books A to Z」で、
金沢八景という言葉に、!となり、絶対に読まなきゃ、と思ったのでした。

物心ついたころから中学2年の終わりまで、
最寄りの駅は金沢文庫だった。
卒業した小学校は八景小学校だったし、遠足や地域の行事で
野島公園によく行った。
そして、ラジオの深夜放送になじんだのも、その頃。
小学校高学年のころからオールナイトニッポンや
文化放送の「天才秀才バカ」などなどをよく聴いていた。
また、20代で深夜残業をよくしていた頃、
帰宅の途中に見えるコンビニのあかりはとてもありがたかった。
遅い食事にありつけるだけではなく、
深夜に買い物をできるということに楽しみを見出したものだった。

そんな、愛するものたちに材を取った
敬愛する佐藤多佳子さんの作品が面白くないわけがない。
読んでみれば、その予想は外れることがなく、
何度も胸をきゅっとつかまれちゃったのだ。

主人公は、大学を休学してコンビニでアルバイトしている。
深夜のラジオ、アルコ&ピースのオールナイトニッポンを聴くことを
毎週の楽しみにしていた。
そんなある日、ひょんなことから同じ番組のリスナーと知り合う。
女子高生の佐古田はぼさぼさの髪にピンクのジャージで
深夜のコンビニに現れた。
コミュニケーションを苦手とする主人公は、
強烈なキャラの佐古田、コンビニの同僚でミュージシャンの鹿沢、
友人の永川たちとの交流を通して、しだいに友情を確かめていく。
まぎれもない青春小説である。
こうした出会いは、若いときの宝物だ。
みずみずしくて、せつなくて、だけどウエットな雰囲気がないのは
舞台である海沿いの街の陽気さゆえだろうか。

テンポの良い会話やSNSを駆使したコミュニケーション、
ニコニコ動画など、現代ならではのツールには今日的な感じがあるが、
根本をたどれば、若者のアイデンティティクライシスや
ディスコミュニケーションからの脱出といった普遍的なテーマが見てとれる。
人間関係で悩んだとき、救いとなるのはやはり人間なのだ、という
当たり前だけど忘れがちなことを思い出させてくれた。

深夜、という濃密な時間帯が効いている。
暗く沈み、しずまりかえったときにこそ、
吐き出せる本音はすくなくないだろう。
そうした言葉は、人の胸を打つ。

著者の作品に登場する人物たちは、どうしてこれほど魅力的なのだろうか。
せりふを発する声色までもが難なく想像できて、
彼らの会話に耳を傾けるほどにワクワクしてくる。

映像化したら……とふと思わせる。
と同時に、大切に守っていきたいと感じる小説だ。
個人的にはとても懐かしく、悩ましき時代を思い出させてくれた。


明るい夜に出かけて

明るい夜に出かけて

  • 作者: 佐藤 多佳子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2016/09/21
  • メディア: 単行本



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