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『レッドアローとスターハウス』 [本]


『レッドアローとスターハウス』  原 武史 著


著者の『滝山コミューン一九七四』が大変面白かったので、
(そのわりにはブログにアップしていない)、
こちらもずっと気になっていて、
いまさらながら読んでみたら、やはり面白い。

著者は日本政治思想史を専門とするが、
自身の生まれ育った団地や、趣味の鉄道を
題材とする著作が多くみられる。
本書は、西武鉄道沿線の政治文化に、
鉄道、団地、西武、共産党、皇室という
キーワードからアプローチしている。

都市部の住宅不足を補うために
郊外に建てられた団地の数々は
単に住宅というだけではなく、多世帯が入居することで、
地域コミュニティーを生みだした。
そうした中、有識者や共産党の支持層を中心として
育まれた社会主義的思想とその発展について、
膨大な資料を紐解きつつ考察していく。

なぜ、西武鉄道沿線に大団地が林立しているか、
また、団地というコミュニティーから
どのような文化が生まれていったか、
さらには狭山事件などにも触れつつ、
東京郊外に広がる地域の戦後史を
細部に至るまで詳細に解説していて、
その調査力には思わず感心する。

なかでも、親米反ソであった堤康次郎の想いと反して、
旧ソ連の郊外の集合住宅と似通った
団地が次々建設され、その結果として
共産主義支持層が生まれていくくだりが非常に興味深い。

以前、猪瀬直樹の『ミカドの肖像』を読んだときにも思ったが、
堤康次郎という人物は、面白エピソードが多すぎる。
ノンフィクション作家が彼について書きたがる理由がよくわかる。

著者の専門と趣味をすべて投入し、
自身が暮らした団地への想い、思想の生まれる背景に迫る
バイタリティあふれるノンフィクション。
趣味である鉄道に関する記述が、
必要以上に多いのが気になるところだが、それもまた一興だ。

ある意味、ネタばれでもある
ロシア・アバンギャルド風の表紙も魅力のひとつといえるだろう。

レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

レッドアローとスターハウス: もうひとつの戦後思想史

  • 作者: 原 武史
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2012/09/28
  • メディア: 単行本



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コメント 2

snorita

うわ、そうなんですね!
知らんかった。。。これ、むっちゃ興味深いです。
西武線沿線か。。。考えたこともなかった。探してみます。
by snorita (2014-07-07 02:25) 

lucksun

>snoritaさん
お返事遅くなっちゃいました。
わたしも西武線沿線はあまり縁がなかったので、
知らないことが多くて面白かったです。
地域から文化が生まれるプロセスが
めちゃくちゃ興味深くて、結構なボリュームでしたけれど、
わりとスルスル読めちゃいました。
機会がありましたら、ぜひ!
by lucksun (2014-07-12 14:01) 

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