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「ロスト・イン・ヨンカーズ」 [舞台]


「ロスト・イン・ヨンカーズ」
2013年10月5日(土)~11月3日(日)
パルコ劇場

作:ニール・サイモン
上演台本、演出:三谷幸喜
出演:草笛光子、中谷美紀、松岡昌宏、小林隆、浅利陽介、入江甚儀、長野里美

パルコ劇場40周年記念公演。
三谷幸喜が劇作家を目指すきっかけになった、自身の原点ともいえる
ニール・サイモンの作品を初演出した。

舞台は1942年、ニューヨーク州のヨンカーズ。
ジェイとアーティの兄弟は、父に連れられて祖母の家にやってきた。
借金の返済のため出稼ぎに出ることにした父エディは、
彼が不在の間、兄弟を預かってほしいと祖母に懇願する。
厳格な祖母は、父にとっても、同居しているベラ叔母にとっても
逆らうことのできない恐ろしい存在だ。
兄弟は正直なところ、ヨンカーズに暮らしたくはなかったが、
他に仕方はなく、祖母と同居することになった。

ベラ叔母は、幼いころ猩紅熱にかかったため、少々おつむが弱い。
ルイ叔父はギャングに追われているらしく、
ガートルード叔母は言語障害がある……と、
家族はそれぞれどこか問題を抱えているらしい。
そんな中、ベラ叔母は、兄弟にある秘密を打ち明け、
味方になってほしいと頼む。
また、ギャングに追われているというルイ叔父が
突然帰宅し、しばらく滞在することに。
癖のある家族たちに翻弄され、戸惑いながらも
兄弟はいつしかヨンカーズになじみ、時には
果敢にも祖母に向かって主張したりする。
また、そうした二人の存在は、冷え固まっていた
家族の雰囲気を次第に緩ませていくのだった。

エディ、ベラ、ルイ、ガートルードの四きょうだいは、
自分たちの主張を少しも認めてくれない母親を憎んでいる。
……ように見えるのだが、思わぬところで彼らの本音が明かされ、
お互いに対する思いは徐々にわかってくる。
母親の支配から逃れたいという思い、だけれども
どうしても断ち切れないという思いが彼らの心の底に重く流れ続けている。
それは、彼らをヨンカーズに縛り付けると同時に、
逆説的であるが、抵抗する必要のない安らぎを与えているのかもしれない。

会話が少々まどろっこしく冗長なところもあるが、
総じてテンポよく、緩急がほどよい。
翻訳劇は、言葉どおり訳しても理解しづらいことがままあり、
説明的になってしまう傾向があるが、三谷幸喜ならではの
皮肉も笑いも込めたせりふで、舞台の世界に一気に引き込まれていった。
脚本の良さに加えて、キャストも大変良かった。
他を圧する存在感で冷徹な祖母を演じきった草笛光子、
難しい役どころをかわいらしく演じた中谷美紀、
典型的な人物像に、親しみと可笑しさを添えてより立体的に見せた松岡昌弘、
エディをコミカルに演じた小林隆が特に好演を見せた。

祖母が自身の家族への思いを独白する場面がたいへん印象的だ。
なぜ、子供たちに冷たく接してしまったのか、
なぜ、自らの心を押し隠してしまったのか。
心の奥底に隠された真実が明かされた時、
彼女の内面に触れた思いがして、胸が熱くなった。


市井に生きる人々の暮らしに潜むドラマを
時にユーモアを交えて誠実に描き出す。
こうした正統派のお芝居を観るのはとても久しぶりだった。
音楽劇やコメディと違って、
こうしたお芝居を見る時は、少し緊張するけれど、
たまに観ると、やはり良いものだ。姿勢が正される思いがした。

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