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「ホーリー・モーターズ」 [映画]


「ホーリー・モーターズ」 (2012)
HOLY MOTORS
フランス/ドイツ
2013/4/6公開

監督:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス
   カイリー・ミノーグ、エリーズ・ロモー、ミシェル・ピッコリ、レオス・カラックス


「ポーラx」(1999)以来13年ぶりとなる
レオス・カラックス監督の長編作品。
正直言うと前作を観た時は、カラックス終わったな……と思った。
絶望に満ちた重苦しい映画で、衝撃的ではあったものの、
個人的にはちっとも面白いと思えなかったのだ。
だからカラックスの新作と聞いて、観たい気持ちと同時に警戒心を覚えた。
面白くなかったら、おそらくカラックスの新作を観ることは二度とないだろう。
そして「汚れた血」の残像を、
この先何度も思い返すことになるのだろう、と。

案の定、観ている最中は「これ面白いか?」。
観た直後もやはり、「なんじゃこりゃ」。
だけど1日、2日経つうちに……「やや、じわっと来ちゃったね」。


銀行家のオスカーは、女性運転手セリーヌが運転する白いリムジンで「仕事」に出かける。
「仕事」とは、物乞いの老婆やモーション・キャプチャーの役者、怪人メルド、
娘を送り迎えするごく普通の父親など、
さまざまな人物に変身してその人の生活を演じること。
風変わりなうえ、何のために、だれのために、
どういう経緯でしているのかは一切語られない。
すべてが謎のまま、ストーリーは展開する。
描かれるのはたった1日だ。
ミッション(オーダー?)を終えればリムジンに戻って
服やメイクを変え、指定の場所へと向かう。
その先に何が待ち受けているかは、オスカーはもちろん、
運転手セリーヌでさえわからないようだ。

もっとも印象的だったのは、墓地をさまよう怪人メルド。
タバコを吸いまくり、花を食いまくり、異様なさまで歩き回る。
ロケをしていたトップモデルを見つけると、
その場から連れ去り、地下の下水道へと向かう。
彼女の肌があらわになっている胸や腕、顔などを布で覆ってやり、
自らは全裸になって彼女の膝で眠りにつく。
奇妙だけれど、無言のうちにも二人の間にコミュニケーションが存在したかのようで、
なんとなくほっとした感があった。

また、インターミッションと称される場面では、
オスカーが歩きながらアコーディオンを弾いている。
するといつしかさまざまな楽器を手にした仲間が徐々に加わり、
マーチングバンドさながら、街じゅうに音楽を振りまいた。

その後オスカーは、自分と同じく白いリムジンに乗った女と偶然出会う。
彼女は、オスカーのかつての恋人だった。
30分という短い間にふたりは廃墟と化した
ラ・サマリテーヌ百貨店に向かい、懐かしい思い出を語り合う。
そして、彼女は歌う。
「私たちは誰だったの? 私たちが私たちだったあの頃」と……。

かつての恋人との再会後、オスカーは酒を呑みたばこを吸い、急激に消耗していく。
なぜ、それほどまでにオスカーは疲弊したのか。
彼の心のうちに何がひっかかっているのかと問えば、
すなわち、それだけが現実だったからではないかとの思いにとらわれる。
現実を生きることの重みを正面から受け止めてしまったからなのではないのか。
そして、虚構の世界に背を向け、去って行った恋人を
自分でも気づかずに恨んでいたのではないのだろうか。

冒頭、仕事へと出かけるオスカーを見送った娘たちも
彼の本当の家族ではないのだ。ということは、
オスカーの本当の「自宅」はどこにあるのだろう。
もしかしたら、この世界にはないのかもしれない。
きょうの「自宅」から明日の「自宅」へ。
その間は仕事として、終わりのない演技を続けなくてはいけない。
そんな人生とは、いったい何だろう。

この作品のもっとも面白い点は何かといえば、先が読めないことではないだろうか。
さて、次にオスカーはどこでどんな人物を演じるのだろうという楽しみが
最後まで続き、さらには、終わったと思わせてまた不思議なオチがつくのだ。
そうした先の読めなさもまた、私たちが生きる人生に似ている。


まったく奇妙な映画だけれど、思い返すたび印象が鮮烈になり、
じわじわと面白味を増していく。もう一度観たいとも思ってしまう。
そんな感を覚えるのは久しぶり。
どうやら、カラックスの罠にすっぽりはまってしまったようだ。

<オフィシャル・サイト>
http://holymotors.jp/




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