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『キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか』  [本]

『キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか』  北尾トロ 著

本書も前記事と同じく、
北村浩子さんの本紹介コーナー「Books A to Z」を聴いて
手に取ることになったのだが、
もし番組を聴いていなかったら、まず気に留めることはなかっただろうと思う。
著者の名前は知っていたが、裁判の傍聴記を書く人という
イメージしかなかったから。

ところが、ラジオから聴こえてきた「私の志集」という言葉に、
思わずぐぐっと、ひきつけられてしまった。
新宿駅(西口側、特に夕方から夜にかけて)を利用する人であれば、
一度は目にしたことがあるのではないだろうか。
女性が一人「私の志集」という看板を下げ、無言で立っている。
その姿を見て気にならない人なんていないだろう。
周りの雰囲気とはまるで違う、孤高の存在感をもつ彼女のことは
長年、疑問に感じていたが、実際に接触したり調べたりなどしようと思ったことはない。
ところが、著者は彼女に直接話しかけ、
なぜいつも同じ場所に立ち続けているか聞いたという。
衝撃的だった。
まず彼女のプロフィールに驚き、そして、著者の果敢なチャレンジに胸を打たれた。

本書は、著者自身によるそうしたルポの数々や“人の役に立ちたい”との
思いから始めた人生相談「解決! トロ」を収録している。
そのいずれもが、まさしく“体当たり”だ。

表題作である「キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか」は、
雪山でも暖かく過ごせるというふれこみの下着を実際に着て
氷点下の雪山に立ってみるというもの。
寒さよりも恥ずかしさのほうが先に立ち、実現を危ぶまれたが、
人の行き交う山頂で、著者は勇気を奮い起こして下着一枚になってみた……。
また、泳ぎに対するコンプレックスを払拭したいと、
沖にあるブイまで泳いでみた体験、命がけのバンジージャンプ、
長野への移住を決めて、住んでいる家を売りに出すまでのプロセスなどなど、
身近でささやかだけれども実行に移すには
勇気が必要な事柄に次々と飛び込んでいく。

慎重さはあるものの身を削って挑戦する物事は、
ごく個人的であるがゆえに傍から見たらくだらないと思えることもあるのだが、
ごまかしたり省略したりすることなく、
それまでの葛藤も隠すこともなく、自身の弱さや小ささに
きちんと向きあって一部始終を記録していることに好感が持てる。

その中でも印象的だったのは、
前述した「私の志集」の彼女の話だった。
掲載している詩を書いているのは彼女の夫であるが、
その題材となるのは夫の前妻のことだという。
それを売るため立ち続けるのは、彼女の仕事だというのだ。
そんな彼女にならい、著者も自分が手掛ける雑誌を立ち売りしてみるが、
まるで売れる気配がなく、彼女にある“志”が自分にはないのだと気づく……。

実際に行動してみなければ納得しないという著者は、
ある意味頑なで、その反面子供のように素直だ。
数々の挑戦を笑い話にしたり大きく見せたりすることなく、
ありのままにつづることで結果として笑える読み物になってはいるが、
本人はいたって大マジメ。だから、なおさら面白い。
人が本気で何かに取り組む姿はくだらなく見えることもあるけれど、
人の心をひきつけるものがあることは確かである。

今までどうしても踏み出せなかった一歩を踏み出す勇気をくれる、と
いったような自己啓発的な要素は一切ない。
ただ、著者のチャレンジあるのみだ。
だけど、こうして果敢な挑戦をし続ける
著者の勇気に拍手を送りたくなる。

キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか (朝日文庫)

キミはヒマラヤ下着の凄すぎる実力を知っているか (朝日文庫)

  • 作者: 北尾トロ
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2013/02/07
  • メディア: 単行本



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コメント 5

ameya

FM横浜のこの放送。僕も聞きました。
とっても好きなコーナーなのですが、この本の紹介はとても印象に残っています。
僕も読んでみようかな(^_^)
by ameya (2013-04-17 07:19) 

ミホ

わたしも最近ラジオを聞くようになって、他の方が聞いているラジオ番組に興味があります♪
わたしの場合リアルタイムは無理なんですが、予約録音しておいて、MP3で出張先に持ってきてまとめて聞いています。次回帰った時は聞いてみようと思います。
by ミホ (2013-04-20 12:57) 

lucksun

>ameyaさん
ameyaさんもリスナーなんですね!
わたしもこのコーナーは大好きで、
紹介されていて手に取った本がとても多いです。
前記事も同じく紹介されていた本なので、
もしよければ見てみてくださいね。

この本、とても読みやすくて面白いですよ。ぜひぜひ♪

>ミホさん
最近、ラジオ番組も多様化していて面白いですよ。
私の場合、音楽や映画の情報源はほぼラジオかも。
近頃ではラジコやポッドキャストもあるので便利ですよね。
ちなみに、この番組もポッドキャストがあるので、
もしよかったら聴いてみてくださいね~。
by lucksun (2013-04-20 13:48) 

北村浩子

lucksunさん、楽しんでいただけてよかったです! 
いいですよねえ、これ。エッセイやコラムはやっぱり書き手の人柄に因るところが大きいんだよなあ、と再確認した本でもあります。ヒマラヤ下着を着たトロさんの写真を見て、あれ、ワイルド系のイケメンじゃない! と実は私はちょっとびっくりしました。もっと違う雰囲気をイメージしていたので……(笑)。
最後に収録されている、家を売ったときの顛末も面白かった。万人に薦められる本だと思います。

(ameyaさん、聴いてくださってありがとうございます!)
by 北村浩子 (2013-05-04 11:08) 

lucksun

>北村さん
コメントありがとうございます!
この本、読んでみて本当に良かったと思いました。
おっしゃるとおり、エッセイやコラムは
著者の人柄の影響が大きいですよね。
プロセスをどう書くか、どこまで書くかというところに
人柄や文章に対する姿勢が表れるのではないかと思います。
文章はもちろん、ヒマラヤ下着を着た写真を見て、
北尾トロさんが好きになってしまいました(笑)。
北村さんのご紹介がなければ、
この本に出会わなかったかもしれない……と思うと、
「Books A to Z」、ますます聞き逃せません。
今週もオンエア楽しみにしてます!

by lucksun (2013-05-06 23:07) 

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