『タイニーストーリーズ』 [本]
『タイニーストーリーズ』 山田詠美 著
年間読了数の目標を毎年100冊に決めてはいるが、
いまだ一度も達成したことがない。
昨年はまったく届かず、62冊に終わってしまった。こりゃひどい。
今年は頑張るぞ!
と、年が明けてはじめに読み終わったのは昨年の話題作だ。
作家生活25周年を迎える女流作家が届けてくれたのは、
テーマ、文体ともに一貫性をもたない21の物語を収録する短編集。
まるで高級洋菓子の詰め合わせのように、
多彩な味わいをぎゅっと凝縮したような一冊だ。
本当においしいものは、ほんの少しで満ち足りる。
読みながら思い浮かんだのは、そんな言葉だった。
冒頭を飾る「マーヴィン・ゲイが死んだ日」は、
亡くなったばかりの母の遺品を整理していて
発見した謎のメモをめぐる物語。
四十九日の法要を終えて、親戚じゅうが集まり開いた
故人を偲ぶ会で、母のメモにあった
“パパ”が誰かという疑問が持ち上がる。
そこに居合わせた誰もが自分なりの推測をする様子を
コミカルかつ親密な筆致で描く。
そのほか、
100歳になったら実行することを主婦が妄想する「百年生になったら」、
本好きの男と結婚した女性が活字中毒のダンナへの不満を
改行なしで一息にぶちまける「紙魚的一生」、
小学生のころ自分をいじめた同級生に対して復讐を企てる「予習復讐」、
唯一の連作である「GIと遊んだ話」(一~五)など、
ユーモアあふれるものからシニカルな視点で描く話、
さらにはサスペンスタッチまで
豊富なヴァリエーションを味わえる。なんという贅沢。
なかでも印象に残ったのは、「モンブラン、ブルーブラック」。
旅行会社で働く優子は、ふとしたことから
あこがれていた女流作家の中条薫子と知り合った。
手書き原稿のパソコン清書を依頼された優子は
薫子の自宅に通い始め、
いつしかふたりは親密な女友達となる。
そして、心を許した優子は
薫子にこれまでの人生を打ち明けるのだが……。
古い洋館に一人で住まう女流作家というシチュエーションに惹かれて
ふと物語の世界に入り込むうち、
ふたりの関係の妙な親密さに不穏な空気を感じ始め、
それがじわじわと大きな影となっていく。
衝撃的なラストに背筋が寒くなったが、
物語全体に漂う背徳的な雰囲気がとても魅力的に感じられた。
一つひとつの言葉を丹念に選び、
甘さも苦さも、ときにはスパイスも添えて
人生の機微をきめ細やか描き出す文章の美しさに惚れてしまう。
ブラックカルチャーやソウルミュージックなど
アメリカのテイストを漂わせるスタイリッシュな空気感もすてきだ。
思わず居住まいを正したくなる
端正かつ流麗な文章は、年始の読書に何よりもふさわしい。
年明けそうそう好みの本に出会えるなんて幸先がよいではないか。
この調子でいけば、100冊達成なるか。
頑張ります。
>xml_xslさん
>+kさん
nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2011-01-13 01:13)