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「シャガール展」　[アート] [編集]

「シャガールロシア・アヴァンギャルドとの出会い～交錯する夢と前衛～」

7／3（土）～10／11（月）
東京藝術大学大学美術館

単なるシャガール展だったら、観に行かなかったかもしれない。
サブタイトルの“ロシア・アヴァンギャルドとの出会い”
という文言に惹かれて、がぜん観る気になった。
そもそも、プロパガンダ的なアートという印象のある
ロシア・アヴァンギャルドとシャガールの接点が
まったくわからなかったのだが、
テーマごとに展示された作品を観るうち、
徐々にその意味がわかってきた。

今回の展覧会は、
ポンピドー・センター所蔵作品から選りすぐった
シャガールの約70点の作品を
同時代に活躍したロシアの前衛芸術の作品約40点と
ともに紹介する。カテゴリーは以下の通り。
「ロシアのネオ・プリミティヴィスム」
「形と光―ロシアの芸術家たちとキュビスム」
「ロシアへの帰郷」
「シャガール独自の世界へ」
「歌劇『魔笛』の舞台美術」

シャガールの作品が、かつて
ロシアの作家の作品と並び展示されることがあったろうか。
この画期的な試みは、シャガールを再発見させてくれた。

自画像に始まるシャガールの作品は、
独特の鮮やかな色彩感覚でのびのびと描かれる。
印象派をはじめとする西欧絵画の影響も垣間見せつつ、
彼独自の画法を獲得しようとする試みが見えて興味深い。

キュビスムの影響を色濃く残す
《緑色の恋人たち》《灰色の恋人たち》は、
まじまじと眺めていると、どんどん違う面が見えてくる。
ふたりの関係やお互いへの思い、
その空間に漂う濃密な空気さえ感じられてくるほどだった。

また、ゴンチャローワとラリオーノフという
光線主義（レイヨニスム）の創始といわれる画家たちの作品、
さらにはカンディンスキーの風景画もじつに興味深い。
気軽にスケッチしたようなカンディンスキーの作品は、
画力のたしかさを如実に表している。
パース、色彩、構成どれをとってもすばらしい。

今回の展示では、「歌劇『魔笛』の舞台美術」が目をひいた。
衣裳をはじめ背景やキャラクター設定に至るまで、
鮮やかな色遣いと豊富なアイディアによって、
魅惑的な世界を展開する。
なかでも、舞台上の光の再現として、
衣裳デザイン画に布を貼ってあるのがユニークだ。
創作への意欲が、作品群の端々からうかがえるのがいい。
それにしても、77歳にしてそれらを手掛けたという事実に驚いた。

そして、今回もっとも印象的だったのは、
「シャガール独自の世界へ」と題した、いわゆる代表作のゾーン。
何度も手を入れたといわれる《家族の顕現》は、
家族や故郷への追憶を強い筆致で描いたごく個人的な作品。
また、自分自身と再婚相手ヴァヴァを描いた
《日曜日》というかわいらしい作品がとくに気に入った。
赤、黄色、緑と鮮やかな色彩で描かれた絵は、
パリの街を描写するとともに幸せの風景を描き出していた。

独自の世界を表現した作品はいずれも、その構成が面白い。
上下左右など画面を分割して、
いくつもの物語を並行して見せる。
それはあたかも、現在と過去、あるいは
今いる場所と故郷を同時に思っている心情を表すようだった。

彼自身を描き、愛する人を描き、愛する故郷を描く……。
センチメンタルな思いにあふれたシャガールの絵は、
今までとはまったく違って見えた。
画家の人となりがわかると、途端に
絵に込められたメッセージが伝わってくる。
その意味でも、また同時代を生きたロシアの芸術家たちの
作品と対比して観ることができた点でも貴重な機会だった。

会場内で上映されている映画が好評だが、
混雑していたため、今回はスルーしてしまった。
機会があれば、もう一度行きたい。
できれば空いているうちに……。

＜展覧会オフィシャルサイト＞
http://marc-chagall.jp/

2010-07-16 21:00 nice!(9) コメント(5) トラックバック(0)
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