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『愛は苦手』 [本]


『愛は苦手』  山本幸久 著


先日、部屋のエアコンがいきなり壊れた。
よりによって、小雪のちらつく厳寒の日に、
なぜにこんな不運が……とどんより気分になったけれど、
落ち込んでいても、寒いものは寒い。
なんとかあったまろうとブランケットにぐるぐるくるまり、
お茶やお酒を飲んだりしてみたけれど、
それも限界に達し翌日オーナーに窮状を訴えると、
すかさずニューエアコンを取り付けてくれた。
すばやい対応に感謝感激。いや、当たり前か?
こんな小さなことでシアワセを感じられるとは、いやはやなんとも。
最近やけに寒かったのは、自分の心が寒かったせいもあったのか。
そんな心をほこほこさせてくれたのが、山本幸久の新刊だ。


本書は、高校生の娘をもつ母親、不倫の末に結婚した主婦、
一戸建てを購入したばかりの中間管理職など、
状況や環境が異なる40代近辺、いわゆる“アラフォー”の
女性たちの悩める日常を描く短編を8篇収録している。

仕事をしていても、結婚していても、家族があっても
どこか“おさまり”のつかない自分を持て余し、
若いときに思い描いていたヴィジョンとのギャップに悩み苦しむ。
40代とは、そんな世代なのかもしれない。
どの世代でも悩みは抱えているだろうが、
いまの40代は特に、若い時分にバブルを経験しているから、
現在との落差を感じて、よけいに閉塞感が増すのかもしれない。
そして、それは決してひとごとではないのだ。

最も印象に残ったのは、「たこ焼き、焼けた?」。
かつてサブカル系の雑誌ライターだった佐々木静子は
編集者と結婚し、娘と3人で暮らしている。
そんなある日、夫の元上司の一旗さんの訃報が届く。
一旗さんは、静子が雑誌『宝箱』の
ライターになるきっかけをつくってくれた敏腕編集者だった。
豪放磊落かつヴァイタリティあふれる仕事ぶりで
一時期は20万部まで発行部数を伸ばした雑誌づくりを手掛けた
一旗さんとの最盛期を、葬式に向かうまでの間、静子が回想する。
はじめて会ったときのこと、映画の話で盛り上がったこと、
冷やし中華をつくりながら企画を詰めていったこと……。
信頼していた人の死をきっかけに過去といまの自分を見つめ返し、
故人が自分に与えてくれたものの大きさをかみしめる。
そうしてささやかでも自分なりの希望を見いだしていく
彼女の姿は潔くて、とてもさわやかだ。

また、40歳を過ぎてできちゃった婚をした
平谷真紀を主人公とする「象を数える」も良かった。
仕事が忙しく帰りの遅い夫が不在の間、
同居する義父とぎこちない時間を過ごしていたが、
ふとしたことをきっかけに、次第に心を通わせていく。
義父が長年抱き続けてきた思いを真紀に話す場面に心打たれる。

アラフォー、といまどき感をまとわせたお手軽な言葉では
くくることのできない、人の数だけある年月とその先にある日々。
それらしき近似値をなぞったような小説とは違い、
しっかりとした手触りをもって、心に寄り添う。
ウエットになりがちな題材だが、
軽やかなタッチで描いていて重みを感じさせない。
それにしても女の気持をよくぞここまで書いてくれたものだと感心した。

愛は苦手

愛は苦手

  • 作者: 山本 幸久
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2010/01/20
  • メディア: 単行本



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コメント 8

lovin

おはようございます。
また興味のわく本のご紹介、ありがとうございます。
アラフォー、、アタシはそろそろその言葉も使えなくなるなあ。(笑)
エアコンのすばやい対応、よかったですね。
ちょっとしたことかもしれないけど、
気分がかなり変わるものですよね。

by lovin (2010-02-17 07:24) 

ミホ

気になる一冊ですね~(笑)。
確かに、バブルという名前の絶頂期を知っているだけに、今の生活になんとなく現実感を持てないような気持ちになることがあります。もちろん、バブルのころの方が現実味が無かったはずなのに・・・(笑)。若い世代のように今の時代に開き直れない、順応しきってない世代なのかもと、レビューを拝見して思いました。
by ミホ (2010-02-17 15:25) 

bluebird

こういう形態の作品、角田光代辺りで読むと、すごく後味悪かったりしますよね(笑)
レビューを拝見すると、その心配は無さそうですね^^

寒いとさ、淋しい気持になりますよね^^;
エアコン早く直ってよかったです
by bluebird (2010-02-17 21:38) 

lucksun

>lovinさん
すごい早朝にコメントありがとうございます。
この本はいろんなところで絶賛されていたので、
読んでみたら、本当によかったですよ~。
誰でもどこか共感できるところがあるんじゃないかな。
アラウンド表示(?)は自己申告なんで、言ったもん勝ちです!
あと10年くらい使えるかも? いや、怒られるか……(笑)。
エアコン、すぐに対応してもらえてよかったです。
日ごろあんまり人にやさしくされてないので、
こういうのがしみちゃうんです。


>ミホさん
バブル期ってたしかに現実味がなかったはずなのに、
いまだにひきずっていることって多いものですね。
私の場合は、バブルの絶頂期に就職した世代なので、
いちばん使えない(笑)とよく言われますが、
そのときに経験したことって、やっぱり影響大きいと思います。
あれから20年近くたつのに、まだあきらめきれないことが
数知れず……。そんなこんなでもがく毎日も
アリなんじゃないかな、と感じさせてくれる本でした。


>bluebirdさん
角田さんの場合は、掘り下げ方が尋常ではないので、
よりリアルに共感できるところが多いですよね。
この本は、一定の距離を置いて描いている感があって、
読後感はさわやかですよ。

そうそう、身体感覚って自分で思っているより
精神に影響することがありますね。
心身ともにさむーい状況がつづかなくてよかったです^^

by lucksun (2010-02-18 00:55) 

lucksun

>xml_xslさん
nice!ありがとうございます♪

by lucksun (2010-02-18 00:56) 

lucksun

>snoritaさん nice!ありがとうございます♪

>shinさん nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2010-03-04 00:15) 

うつぼ

アラフォー、、もうちょといけるかな。(笑)
この本、、読んでみたいですね。
最近、ホコホコっとした気分になかなかなれないような気がしてますので
(喜怒哀楽の度合いが極端なことが多いかも)
この本で温かい気持ちになってみたいです。。。。
by うつぼ (2010-03-04 21:58) 

lucksun

>うつぼさん
アラフォー、まだまだ全然いけますって!
喜怒哀楽の度合いが極端……、わかるような気がします。
特に、怒、が(笑)。
ちょっとしたことでもいらつくってのはバサバサしている証拠ですかね。
この本は、気軽に読めて、ちょっといい気分になれますよ~。
by lucksun (2010-03-08 00:32) 

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