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『放っておいても明日は来る』 [本]

『放っておいても明日は来る』―就職しないで生きる9つの方法
高野秀行 著

今年も、読書目標は100冊。
いちおう毎年、100冊を目標に読み始めるのだが、
いまだ達成したことはない。昨年は81冊だった。
もともと読むのが速くないからしょうがないような気もするが、
やはり一冊でも相性のよい本に出会いたいから、
とりあえずひたすら読むぜ。
5年越しの目標になっている『真田太平記』も
そろそろチャレンジするつもりだ。長尺モノもたまには読みたい。


本書は、辺境作家の高野秀行氏がJ大学で行った
講義「東南アジア文化論」を収録している。
講義内容は、高野氏の交友関係から
主に東南アジアを中心に活躍する人たちをゲストに呼んで、
「東南アジアを生で体験している人を読んで話しを聞こう」というもの。
学生たちの実になるだろうとのねらいがあったそうだが、
ふたを開けてみれば、爆笑モノの奇談の連続だった。

「就職しないで生きる9つの方法」というサブタイトルに反して、
学生たちには、“就職活動で疲れた心が癒される”と
大好評だったそうだ。
それもそのはず、ゲストたちは、
とにかく「なんとかなるだろう」という意気込みだけで
人生を渡ってきて、そりゃ数々の失敗もあるけれど、
結果的には全然ノープロブレムな人ばかりなのだ。
良い意味で“いい加減”で大らかすぎる彼らは、
必死に就職活動をしている大学生たちの心に
決して小さくない希望を与えたのだろう。

ゲストはユニークな経歴の持ち主ばかりなので、
傍から見れば「コイツ何やってんだろ」と思われるのは必至である。
しかし、そうした周りの目や世間的な基準など、
彼らの前では何の意味もない。
いかに適当のように見えても中心がぶれることはなく、
自分オリジナルの基準がちゃんとあってそれに沿って判断しているから、
たとえ成り行きでも、間違っていても修正が利く。
しかも、間違いや失敗さえ気にせず、どんどん進んでいくのだから、
彼らの人生の歩き方はとても潔くて、かっこいいのだ。

「はじめに」で“怪奇現象並みに不思議なこと”と述べているが、
講義で対談を行ったゲストの全員が、企業に属さない人だったそうだ。
それはつまり、人に話して面白がられる生き方をしてきた人は、
会社や団体などには依存しないということだろう。
自分以外の何かを頼れば、その分不安定になるということを
彼らは経験というより、感覚から知っているのではないかと思う。

中でも、駒沢大学探検部出身の野々山さんの話が激烈に面白い。
現職の屋久島のネイチャーガイドにつくまでの経歴は、
ほぼすべて成り行きまかせの旅のようだ。
アフリカのチャドでNGOに参加し、
その報告会を北海道から沖縄まで自転車で行って開催したところ、
最終地点の屋久島で、知り合いに「うちの物置に住む?」といわれて
住み着いてしまったそうだ。
しかし、笑える話だけではなく、至極まっとうな発言もある。
好きなことをするのもそれなりにシンドイけれど、
何をするのも決して楽ではないから、
だったら好きなことをしたほうが得だ、と。
そして、ラストの一言に、不意に胸をつかれた。

そのほか、ダイエットのためにボクシングを始めたら、いつのまにか
タイでプロのムエタイ選手になってしまった女の子や、
まったくの思いつきでラオスにカフェをオープンした人など、
常識なんか軽々と超える話ばかりで、
ただただ彼らの柔軟性に感心してしまう。
予測しない状況に対応できる力を身につけている人は、本当に強い。

最も心に残ったのは、高野氏自身による、
「『絶対無理』の七、八割はどうにかなる!」。
高野氏はあくまでも自分のことを普通というが、
普通のナカミが、やはり凡人とは一味ちがうように感じる。
若いころインドに行ったとき、
旅行中にだまされて金やパスポートを盗られてしまっても、
なんとかなってしまったそうだが、
その経験から、「意外に生きていけるんだな」と思ったのだという。
自分の中の恐怖心や思い込みといったハードルを
自力で超えてしまったのだ。
あきらめることなく、物事をフラットにとらえて
さまざまな方向から抜け道を探っていく、
苦労をも楽しんでしまえる思考回路が独特なのだ。

ゲストたちと高野氏が出会ったきっかけについて
あまり話されていない点が、ちょっぴり惜しい。
“類友”であるからして、こんなユニークな人たちばかりと
知り合いになれる高野氏は、ある意味特異な人脈の持ち主といえる。
しかし、その人脈がどこで築かれるかが最大の謎なのだ。
著者の過去作品を読んでいれば何となく察しはつくものの、
ちょっとしたエピソードなどがあると、
彼らへの親近感がより増したのではないかと思う。


こういう本を若いときに読んでいれば、人生違っただろうか。
だけど、このタイミングで読んだことに意味がないとは思わない。
ビジネスノウハウ本より、
よほど起業家精神と独立精神に満ちている通称「アスクル」。
この一冊があれば心を強く持てるような気がする。

放っておいても明日は来る― 就職しないで生きる9つの方法

放っておいても明日は来る― 就職しないで生きる9つの方法

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2009/11/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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コメント 9

lovin

1年で81冊~~!すごい!尊敬です。
>やはり一冊でも相性のよい本に出会いたいから、
そっか~~、そのおかげで、、ここで紹介してもらった本、参考にしています。
今回のもおもしろそうです。
Lucksunさんがここに挙げてくれているキーワードでけで、
元気になれるような気がします。さすが。

by lovin (2010-01-24 11:23) 

うつぼ

高野さん、ムベンベの人ですね。それだけでも読んでみたいです。。
年間100冊を目標にされるだけで尊敬しちゃいますが、一ヶ月に1冊
読むかどうか、、なので、少しでも姐さんの足元に近づきたいです。。。
by うつぼ (2010-01-24 21:36) 

lucksun

>lovinさん
読書って単なる習慣のような気がするんですよね。
わたしの場合、移動するときや待ち時間があるときは
本がないと落ち着かない(笑)。それか、暇なだけかも~~。

参考にしていただけて、本当にうれしいです。
好みも人それぞれだから、
気に入っていただけるかどうかわからないけれど、
この本は個人的にとっても気に入りました。
対談なので、気軽に読めますよ~。

>うつぼさん
ムベンベの人ですよ~。
高野さんの本は今のところはずれなし。
どれを読んでも面白いと思います。
年間100冊はあくまでも目安で……。
仕事の一環でもあるので、せっせと読んでます^^;
でも、好きな本だけじっくり読むというのもアリだと思いますよーん。
by lucksun (2010-01-25 01:09) 

hiroko

いやー、これ、とてもいい本ですよね。
人に貸していて今手元にないんですが、
もしかしたら一番おもしろかったのは、
最後の高野さんのエピソードだったかもしれないなあと思います。

以前、書評講座の課題本で、
シャネルの日本法人の社長さんが書いた
『日本人には教えなかった外国人トップの「すごい仕事術」』と
いう本を読んだんですよ。
社長さんが、5,6人の「外国人トップ」(スタバやリーバイスの社長さんとか)と対談している本なんですが、
まえがきに「彼らはみんな特別じゃない。普通の人だ」みたいなことが書いてあって、
思わず「全然フツーじゃねーだろうがっ!」と悪態をついてしまったんですが(笑)
高野さんの言っている「みんな普通の人」というのは、
すんなりと入ってきたんですよね。
「なんとかなるさ」と思えるのは、彼らの普通じゃない部分だ、と
分かりながらもね。
なんというか、心を「太く」持っていたいと思える本でした。
by hiroko (2010-01-27 20:27) 

lucksun

>hirokoさま
この本、番組で紹介されてましたね!
昨年刊行されたときにすぐ買ってたんですが、
なんとなくもったいなくて取っておいて、
今頃になって読んでみたらやっぱりおもしろかったです。

わたしも最後の高野さんの話が一番読みごたえがあったと思います。
対談というのは、その場の雰囲気も多分に含まれるから、
会話がおもしろい、ということもありますけれど、
高野さんの場合、エピソード自体がやっぱり普通じゃない(笑)。
あくまで普通、というのは
特別なことをしようと思ってはいない、ということではないかな、と。
どちらかといえば、ある程度その時々に応じて
状況や人の助言や提案を受け入れているうちに、
思わぬところまで来てしまった!
ということなんじゃないかなー、なんて思いました。
「なんとかなるさ」と思うことすら、大変なことですものね。

おそらく今後も繰り返し読むことになりそう……。
気持ちが明るくなる本って理屈抜きでいいですね。


by lucksun (2010-01-28 00:43) 

lucksun

>xml_xslさん nice!ありがとうございます♪

>タケルさん nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2010-01-28 00:45) 

lucksun

>+kさん nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2010-01-31 00:05) 

Lucy

lucksunさんのレビューを拝見して、「この本読んでみたい!」と思って早速本屋さんに行ったんですが、タイミング悪く置いてませんでした(泣) 
ネットで注文して、今、ワクワクしながら待っているところです。明日あたり届くかなぁ♪
車通勤なので、本を読む機会がめっきり減ってしまったのですが、今年は貪欲に読んでみたいです。

by Lucy (2010-02-02 22:40) 

lucksun

>Lucyさん
そんなにメジャーな本ではないので、
書店にはなかなか置いてないのかもしれないません~。
でもネットで注文した本が届くのを待つのも楽しいですよね。

好きなところから気軽に読めると思いますので、
時間のある時にちょこちょこ読んでみてくださいね。
気に入ってもらえるといいな……。
by lucksun (2010-02-04 00:52) 

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