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『怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道』  [本]



『怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道』  高野秀行 著

辺境ライター・高野秀行氏の著作を読むにつれ、
彼はわたしにとってのヒーローになりつつある。
好奇心の強さ、フットワークの良さ、笑いのセンス、
どれをとってもやはり凡人とはちがうと思わざるを得ない。
憧れはあってもなかなか行動に移せない、
しかも収穫があるのかないのかサッパリわからん
冒険や探検に夢中になれるって、すごい才能だ。
さらには、世間の常識や人目を気にすることに
意味なんかない!とばかりに、おのれの獣道をずんずん突き進んでいく、
そのバイタリティに惚れ惚れする。
現代ニッポンにもまだこういう人がいるんだ!と思うと
心にガツンと栄養がいきわたっていく感じがするのだ。

話の発端は、そんな高野氏が何か“探す”ものはないかと
考えあぐねていたとある日、「謎の巨大生物UMA」というサイト上で
謎の魚類“ウモッカ”に出会ったことに始まる。
ちなみに、“UMA”(unidentified mysterious animals)とは、
未確認動物のこと。イエティやネッシーなど。ユーマと発音する。

サイトに登場する“ウモッカ”とは、
ハンドルネーム“モッカ”さんがインドの海べりで
偶然に目にした奇妙な魚である。
背中にトゲがあり、トカゲとサメが合わさったような
奇妙な風貌の“ウモッカ”を知り、高野氏はこれだ!と思った。
この魚が本当に存在することを証明できたら、
世紀の大発見になるのではないか、そして
それを成し遂げるのはオレしかいない!……
というわけで、冒険ゴコロにメラメラ火をともし、
高野氏は“ウモッカ”探しの準備を着々と始めるのだった。

発想が突拍子もないかわりに、といってはなんだが
探検の準備に関しては、高野氏は常に冷静沈着かつ綿密である。
まずは一次情報しか信用しないというポリシーにのっとり、
第一発見者に話を聞きに行き、また専門家の意見をうかがう。
さらには、現地に赴いたときに必要になるであろう
非常にマイナーな現地の語学習得のため、
インターネットを駆使して現地出身者を探し、教えを請う。
そのパワーたるや、恐るべし。
以前、カルカッタから強制送還された経験があるため
大いに不安があったビザも無事におり、いざインドへ向かう。
果たして、そこで高野氏を待ち受けていたのは、
予想もしない事態だった……。

ここからが本題だ。あるいは山場、はたまたオチでもある。
エエー!?と叫びたくなるような展開である。
ナヌッ!? これって反則じゃあないのか!? が読後の印象だった。
しかし、よくよく考えてみれば、これでいいのだ。
何しろ、高野氏の探検なのだから。
当初の目的を達成せずとも、そこに到達するすべての経過が
探検であるということをまざまざと感じさせる。
何より、“ウモッカ”探しに賭ける情熱やワクワク感が
素直に伝わってきて、いつしか一緒に探検に出かけるかのような
ココロモチにさえ、なってくるのだ。
客観的に淡々とつづっていても、その熱を帯びた探究心は
何かしらグッと惹きつけるものがあった。

落胆と同時になぜか安堵しながら表紙をジッと見つめていたら、
遠慮がちに“インドへの道”と書かれたサブタイトルに
すべての答えが含まれていたことを知った。納得。
ふふん、やられたぜタカノくん。

探検は、結果にすべてがあるわけじゃない。
心にめばえた探究心をどこまで持ち続けられるかである。
そう思えば、いつ、どこにでも探検の種はあるのだ。
きっと、そうして高野氏の探検は続いていくのだな。
一生、探検する人としてあり続ける高野氏の本を読むたびに、
わけがわからずとも勇気がわいてくる。

落ち込んだときは高野氏の本を読むべし。
世の中なんでもありなのだ。そう思えば毎日楽しい。はずである。



怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道 (集英社文庫 た 58-8)

怪魚ウモッカ格闘記―インドへの道 (集英社文庫 た 58-8)

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2007/09/20
  • メディア: 文庫



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ミホ

今回、笑える本を一冊も持ってこなかったのは失敗でした・・・。
高野さんの本を持ってくればよかったと、lucksunさんのブログで痛感。
ミステリーばっかり読んでると、恐くて寝れなくなったりします(笑)。
彼のブログもすごいですね。ひっきりなしに、辺境地(?)へ
赴いているみたいで、びっくりです(笑)。
by ミホ (2008-05-25 12:41) 

lucksun

今回の旅のお供はミステリーなんですね。
高野氏の本はもれなく笑えるので、
息を抜きたいときにはぴったりだと思います。
でも、こんな本を読んだら仕事を忘れて探検したくなるかも!?(笑)
そうそう、高野氏のブログも世界各国の辺境の地から
更新していて、面白いですよ~。
このアクティブさ、見習いたいような、そうでもないような……(笑)。
by lucksun (2008-05-25 21:44) 

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