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『ワーキングガール・ウォーズ』 [本]

『ワーキングガール・ウォーズ』 柴田よしき 著

酒井順子のエッセイ『負け犬の遠吠え』が
2003年に発売され話題になって以来、
30代・独身・恋人ナシの女を主人公とした
この手の作品は実に多い。
まったくひとごとじゃない設定に痛さを感じつつも、
彼女たちがどうやって世間や仕事と対峙していくのか、
つい興味を抱いてしまう。
身近にロールモデルがいない分、小説の中に
ふさわしい人物を見いだそうとしているのだろうか。

誰もがうらやむ一流企業の企画部係長を務める墨田翔子は
37歳、未婚、入社15年目、恋人・人望ともになしという
立派な負け犬だ。
プロフィルを見る限りでは、昨今ありがちな
仕事に生きがいを見いだしてキャリア・アップを図る女性と思われるが、
翔子がその他大勢とちょいと違うのは、
会社内において、上司にも部下にも媚びたりへつらったりしない点にある。

役に立たない上司や生意気な部下たちに翻弄されつつも
企画という自らの仕事に誇りをもち、
翔子は毎日、仕事に全身を捧げている。
そんな中、部下たちの間で新入社員へのいじめが発覚する。
できる社員への嫉妬と羨望が生みだすどろりとした悪意の渦は
徐々に波紋を広げ、翔子のもとへと相談が舞い込んだ。
果たしていじめの主犯格とは? そしてその真のねらいとは……。

ちょっとしたミステリの要素も孕んではいるが、
テーマはあくまでも働くオンナ。
ねちっこい嫌がらせや次々と起こるトラブル、
複雑にからみあう人間関係にも、翔子はいつだって負けない。
背筋をピンと伸ばして凛としている。
そしてあるとき、心身ともにリラックスするため
有休を取って訪れたオーストラリアで、
現地ガイドを務める愛美と知り合い、親友となった。
また、同じくひとりでツアーに参加していた嶺奈とも
ひょんなことから打ち解けあい、孤独を抱えた3人は
離れて暮らしてはいても友情を育んでいく。

本書に登場するオンナたち、あるいはオトコだって
それぞれ心に傷をもち、誰にも言えない苦しみを抱えている。
だけど、それでも生きていくしかない。
そしてその行き先を決められるのは、ほかでもない自分なのだ。
決断を迫られたとき、焦らず自分の心を見つめて
正しい答えを導き出せるか。
30代後半になって戻る道を失ったオンナたちの心境は、
まさに崖っぷちといえるだろう。
だけど、それでも前を向いていこうとする彼女たちはカッコ良かった。

女にだらしない過去の男に向かって、翔子は言う。

「これ以上ないってくらい、女そのものよ。……(中略)
 本物の女らしさってのは、女としてのプライドを簡単に譲らないことなのよ。
 ……(中略)あたしにはあたしのプライドがあるの。
 そしてあたしは、それを守るためだったら、他のなんだって犠牲にするのよ」

男気あふれていて、なんともたくましい。
こんなせりふを吐ける翔子をうらやましいと思ってしまう。
仕事もプライベートもなんとなーく中途半端になっている今日このごろ、
背中をバシシッと叩かれてカツを入れられた気分だ。

自分をごまかさずに何事にも真っ向からぶつかっていく
翔子の姿は、正直言ってかなり痛い。
だけど、現実の厳しさをあらためて感じながらも、
明日をちょいと信じてみようかな、という気分にさせてくれる一冊である。


ワーキングガール・ウォーズ


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コメント 5

omoshiro

「立派な負け犬(笑)」を主人公に据えるストーリーを書か
れるとなると、もしかして・・・。
念のため、ネット検索してみました。
おー、やっぱ女のひとでしたか(ベテランの男性ミステリー
作家だと思ってました。ご、ごめんなさい、柴田先生! m(_ _)m )。

livedoorの方でブログを書かれてることも、ついでに判明です。

lucksunさんのブログを読んで想像する黒田翔子像は、
結城めの憧れの対象のひとり、と思います。で、ときどき、
「それでもオトコ?!」みたいな表現で叱ってほしかったり
して。・・・な、なさけなっ!
by omoshiro (2007-02-11 16:34) 

lucksun

>結城さん
そうそう、柴田よしきさんは女性なのですよ。
なぜか勘違いされている方が多いようですね。
ミステリを多く書かれているからなんでしょうかね〜。
それにしても結城さん、こういう女性が憧れの対象とは、
Mッ気をお持ちなんでは?
すんません、たいへん失礼な妄想をいたしました(笑)。
nice!サンキューです。
by lucksun (2007-02-13 17:15) 

lucksun

>kanonさん
ゾロメnice!をいただきましてありがとうございます
by lucksun (2007-02-13 17:17) 

ミホ

最近、ちっとも他人事じゃなくなったこの手のお話。
「負け犬の遠吠え」も気にはなっているのですが、
内臓をヒヤっとさせられそうで、手に取れませんでした(笑)。
この本は、一味違うような感じですね~。
by ミホ (2007-02-18 18:49) 

lucksun

>ミホさん
わたしも立派な負け犬なので(笑)この手の本は買いにくく、
図書館でこそこそ借りて読んでいます。

酒井順子の『負け犬の遠吠え』は、ある意味自虐的な笑いを
演出していますが、この本は大マジメなんで
ところどころ痛い反面、なんとなく
「ああ、これでいいのか〜」なんて安心させられたりもします。
nice!ありがとうございます♪


>yukizさんっ!!
おおー、元気でしたか? お久しぶりですん。
nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2007-02-19 14:36) 

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