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「ムンク展―共鳴する魂の叫び」 [アート]

「ムンク展―共鳴する魂の叫び」
2018/10/27(土)~2019/1/20(日)
東京都美術館

ムンクの作品を初めて直に観たのは、
2007年に西洋美術館で開かれたムンク展だった。(リンクは本ブログ内の記事)

それ以来、久しぶりの鑑賞を楽しみにしていたが、
意外な混雑に驚いた。
「叫び」が有名とはいえ、地味で陰鬱なイメージの強いムンクが
これほど人気だとは思いもしなかった(失礼)。

今回の展示は、代表作「叫び」をはじめとする約60点の油彩画を含む
約100点を展示するという充実したものだ。
「ムンクとは誰か」に始まり、家族、魂の叫び、
男と女、風景、晩年に至るまで画家の全容に迫る。

会場に入るとまず目に入るのが、自画像とセルフポートレイトの数々。
どこを見ても、画家自身の姿が映るという自己愛に満ち満ちたコーナーだ。
ムンクといえば内面世界を表現した作品が多いが、
状態の良い時も悪い時も自分自身を見つめ、
そこから沸き起こる感情に材を取っていたのだろうと思わせる。
そうして描かれた作品群は着想を得て生み出されたというより、
衝動の赴くままに生まれてきたようである。
また、誰もが持ちうる普遍的な感情を表しているからこそ、
観る人たちの心をとらえるのではないか。

なかでも興味深かったのは、《接吻》や《吸血鬼》《マドンナ》など、
同じ題材でいくつも作品を描いているところだ。
少しずつ違うのだが、モチーフ、構図もほとんど同じだ。
何が違うのかといえば、おそらく作品に向かった時の作家の心象だろう。
カラフルになったり、彩度を欠いたりするのは、
その時々の感情が表れているからではないか。
そう考えると、ムンクはずいぶん正直な人なのだ。
とくに前述した《接吻》などは、
愛する人と一体化したいという
切なる望みを表しているようで親しみが感じられ、
ムンクの人柄にふれるようでもある。

今回の目玉である代表作《叫び》は、
たしかに圧倒的な存在感を放ち、ひときわ注目を集めていた。
不安をあおる表情、赤くうねる空、後ろを流れる川も
同様に激しくうねり、人物の感情とそれを取り巻く世界がすべて
うねうねと動き続けているかのようだ。
人物の腰と川が同じ角度にうねっているのが、
どことなくユーモラスでもある。

不安や人間の本質を描きつづけた画家の中心にはいつも、
母と姉という身近な存在を早くに亡くした経験からくる
深い孤独があった。
繊細な気質ゆえ、晩年は精神的に不安定な状況に陥ったが、
そうした人だからこそ、このような世界の見方ができたのだろうと思う。
暗く陰鬱に見える画面のなかにも、
希望に至る光をひとすじ描く。
創作活動を通して自身の精神を救おうとしていたのかもしれない。

「叫び」があまりにも有名なため、
どうしても注目が集まるが、それ以外の作品もたいへん興味深い。
じっくり眺めるほどにムンク作品の本質が見えるように思う。

気が付けば、会期もあと少し。
迷っている方、年末年始にぜひどうぞ。

<東京都美術館ホームページ>
https://www.tobikan.jp/

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