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『沈まぬ太陽』 [本]

『沈まぬ太陽』  山崎豊子 著

渡辺謙主演の映画「沈まぬ太陽」が
話題になっていて、観たいと思ったが
上映時間が3時間超と聞いてちょっとひるむ。
だったら先に原作を読もう、と
書店で山積みにされている文庫をじっと見ていたとき、
ふとデジャヴュのようなものが頭をよぎった。
たしか、『白い巨塔』のドラマ放映中も
原作本を買おうとしたんじゃなかったか。
それでもって、ふと思い立って母親に問いあわせたところ
全巻持っていたから借りたんじゃなかったっけ。
そう、母親は山崎豊子のファンなのだ。
ということは、『沈まぬ太陽』も持っていないワケがない!と
訊いてみると、案の上、全巻そろっているというので
宅急便にてレンタルすることにした。
そうして無事に全5冊の文庫本が送られてきたので
ほぼ1か月ほどをかけて(合間にちがう本も読みつつ)読破した。


巨大企業の不正や理不尽に真っ向から立ち向かっていく
ひとりの男の闘いの日々をつぶさに描く社会派ドラマ。
ずっしりと重く苦々しいにもかかわらず、
グイグイ惹きこまれ、読まされてしまった。


綿密な取材や調査に基づき
細部まできっちり書きこまれているため、
フィクションとノンフィクションの境目が時折わからなくなる。
日航がモデルになっていることは、予備知識としてあったが、
まさかこれほど現実に即しているとは思っていなかった。
とりわけ、史上最大の航空機事故といわれる
日航機墜落事故のくだりでは、
被害にあわれた方々が実名で登場していて驚く。

作中には、東京―大阪123便に乗っていた方が
墜落直前に書いたメモが全文掲載されている。
それを読んだとき、当時、新聞で見たときの衝撃が思い出されてきた。
1985年のことだからもう24年も前なのに、
当時の記憶が鮮明によみがえってきたことにもまた、愕然とした。

墜落事故だけにとどまらず、
組合問題や民営化に向けた再建問題など、
小説とはいえ、巨大企業の内情をこれほどリアルに書いて
物議を醸さないわけがない。
しかもよくこのタイミングで映画化したものだ。
映画化を実現した人たちの度胸と心意気を、素直に尊敬する。

本作に描かれるのは、いまでは滅多に見ることのない
企業戦士といわれた人々の姿である。
恩地元のようになりたいと思う人はまさかいないだろう。
だが、彼の出現を待ち望む人はいるかもしれない。
理不尽な社命に従うも心の中では屈せず
会社の不正をただそうと、反骨精神を抱き続ける。
そんな彼はある意味、サラリーマンたちのヒーローとなりえるのだ。
それが良いのか悪いのかはわからない。
身近にいたら、むしろ避けたいと思うかもしれないが、
そうした人間がいたことを忘れてはいけない、
私利私欲にまみれた企業の不正をゆるしてはいけない、と
山崎豊子は警告しているのだろうか。

企業のありかたやモラルといったものも含まれるが、
それ以上に人としての生き方について考えさせられた。
映画はまだ観ていない。
自ら恩地役を熱望した渡辺謙の演技に期待したい。

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈1〉アフリカ篇(上) (新潮文庫)

  • 作者: 山崎 豊子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2001/11
  • メディア: 文庫



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コメント 8

bluebird

重くて長くて辛い内容なのに、読んでしまうんですよね。
どんどん読み進んでしまう、作品の力がひっぱってくれる・・そんな印象でした。
男性的・・ともいえましょうか、余分な感情が入り込む余地がなく、小説なのかノンフィクションなのか途中で分からなくなりました。

映画・・観たいような、辛いだろうから避けたいような・・・
ううん・・・
by bluebird (2009-12-14 09:44) 

lovin

私は映画のほうだけ先に観てしまいました。すごかったです。
原作を読んだ人は、みんな原作のほうがもっといいよ、というので、
時間を見つけて読んでみたいと思います。
本当に偶然なのですが、一昨日、ライブに来てくれたお客さんで、
JALの整備をやっていて、今年、早期退職された方がいました。
そのお客さんと、この映画の話になり、彼も原作のほうがもっとスバラシイ、と言ってました。
かなり長いので、1本の映画にするのは大変だったと思いますが、
1本の映画で、というのが山崎さんの希望だったそうです。
読まなきゃ。
by lovin (2009-12-14 11:58) 

lucksun

>bluebirdさん
そうなんです。なんだか妙な力にひっぱられるように、
ずるずると読み進んでしまいまして、
内容の重さのせいもあったのか、読み終わってからどっと疲れました。
事実をそのまま連ねているようだからこその迫力もありますね。
いや~、山崎豊子すごすぎ。
映画も観たいけど、号泣しそうな予感がします(笑)。
なので、落ち着いたころにDVDで観ることになるかも……。

>lovinさん
映画、ご覧になったんですね!
JALの整備の方とお話しされるとは、貴重な機会でしたね。
その方も、映画より原作がいいと言われてましたか。
年末休みで時間がとれるときにでも、ぜひ読んでください。
映画を先に観たのでしたら、わりとすんなり入れるかもしれません~。
by lucksun (2009-12-16 01:10) 

ぷりごろたん

仕事が忙しくなる・・・というときに,買ってしまいました。
こんなことしている場合じゃないとわかっていながら,
ついつい読みふけってしまいました。
最初は,本の厚さと,新潮文庫の文字の大きさなどから,
どうしようと思いましたが,読み始めると引き込まれてしまうところが,
山崎豊子のすごさかもしれません。
by ぷりごろたん (2009-12-16 21:56) 

lucksun

>ぷりごろたんさま
はじめまして、こんばんは。
やることがたくさんあるときに限って巻数ものに
手を出してしまう気持ち、わかります^^
わたしも時々やってしまいますが、逃避したいんですよね~。
読み始めると、その世界に没頭できる小説ってすごいですね。
nice!&コメントありがとうございました♪
by lucksun (2009-12-17 00:49) 

lucksun

>xml_xslさん nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2009-12-17 00:50) 

ぷりごろたん

忘れていましたが,新潮文庫の表紙カバーの写真は,
猫やたてごとアザラシなど,動物の写真でおなじみの,
岩合さんのものでした。
意外な出会いがうれしかったです。
by ぷりごろたん (2009-12-17 18:34) 

lucksun

>ぷりごろたんさま
なんと、表紙写真は岩合さんだったんですね!
言われるまで気づかず、いま確認してみました。
教えていただいてありがとうございました!
by lucksun (2009-12-20 23:36) 

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