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『パーク・ライフ』 [本]

『パーク・ライフ』    吉田修一 著


人を知りたいという欲望は、
一体どこからやってくるのだろう。
分からないから、好きだから、興味があるから。
知れば知るほど欲求は高まり、果ては
こうであって欲しいと理想を突きつけてみたりする。
人を知りすぎることは良くない。と思う。
相手が何を思ってどう行動するのか分かってしまえば、
そこからはもう、自分との差異を見いだすことになって
どんどん離れていってしまいそうだから。
と思いつつも、人への好奇心を抑えられない。
そんな自分を持て余し、自己嫌悪に陥ることを繰り返す。
結局、人を知るということは自分自身へ還ってくるものなのだ。

さらりと出会って、ふたことみこと交わし、
じゃあね、と笑顔で手を振って別れる。
そんな一瞬の邂逅こそが、人との最良の関わり方なのかもしれない。


なんてことを感じたのは、この本を読んだからだ。
思わぬことをきっかけに顔見知りになった男と女は、
お互いの名前を訊くことも約束をすることもなく、
毎日のように日比谷公園で会う。
そういった相手というのは、ある意味では
最も力を抜いて話せる存在になる可能性もある。

主人公の男は、対岸から眺めているような
客観的な目線で何事にも接する、体温の低そうな人物である。
対して、女は仕事もプライベートも
充実していながら、いつも居場所をさがしているかのよう。
ふたりの性質は、都会に暮らす若者の
典型的な姿を端的に映しているように思われる。
また、たびたび登場するスターバックスのコーヒーが
大都市に暮らす人々が抱えるひっそりとした孤独を暗示している。

スターバックスの窓際に席をとり、ひとり過ごす女たちを
見て、男は近寄りがたいオーラを感じると言う。
「私を見ないで」という雰囲気をからだから発散させていると。
それを女に告げると、
「なんにも隠していることなんかないわよ。
逆に、自分には隠すものもないってことを、
必死になって隠しているんじゃないのかな」と女は言うのだ。

まるで自分でも気づいていない無意識をのぞかれたような
このせりふに、思わずぎょっとした。
それ以外にも、女の行動や態度を見ていると、
心なしか居心地が悪くなる感じを覚える。
吉田修一という人は、
どうしてこうも女性心理を的確に描くことができるのだろう。
どれだけ、いつも女を観察しているのだろうかと、そら恐ろしく感じられる。
というのはつまり、一つひとつの描写が日々の生活に寄り添っていて、
現実よりも現実的に日常を綴っているからなのだろう。

なんということのない現実の繰り返しが日常である。
だけど、そんな中にもふと心が揺れるような出会いや出来事がある。
歯がゆさや焦りを覚える日々もあるが、
生きていることはそう悪いことではないという思いが
じんわりと広がっていく。と同時に、
リアリティを求めているわりには現実の冷たさに気づいていない
核心を言い当てられたような、はっとする思いがした。



パーク・ライフ (文春文庫)

パーク・ライフ (文春文庫)

  • 作者: 吉田 修一
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2004/10
  • メディア: 文庫



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lucksun

>kanonさん
ごぶさたしてます。お元気ですか?
nice!ありがとうございます♪
by lucksun (2008-05-02 00:14) 

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