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『主題歌』  [本]



『主題歌』  柴崎友香 著


著者の作品は、過去に『きょうのできごと』と
『その街の今は』を読んだことがある。
なんとも不思議な印象を残す作品を書く人だと思った。
とりたてて記憶に残るエピソードがないにもかかわらず、
いつまでも淡くやさしい気持ちに包まれるのだ。
本書においても、その印象は変わらなかった。
はかなげで、しなやか。
強い主張はないけれど、自分の書きたいことを余さず
綴っていこうとする頑なな意思が感じられる。


主人公の実加は、かわいい女の子を見るのが好きで、
スカーレット・ヨハンソンやニコール・キッドマンなどの
グラビアをうっとり眺めるような“女子好き”の女の子。
同じく“女子好き”の同僚の小田ちゃんと、
街や店で見かけた女の子について話すことを楽しみにしている。
そんな実加は、自分の友だちや友人の紹介で会った女の子たちを
集めて自宅で“女の子カフェ”をしようと考えた。
そして雨の降る土曜日、実加と恋人の洋治が住む部屋に、
かわいい女の子たちが集まり、
おいしいものを囲みながら、とりとめのないおしゃべりを繰り広げる……。

女の子たちはみな、恋と仕事に悩み、
友人との時間を大切にするような
どこにでもいそうな普通の女の子だが、それぞれのキャラクターがいい。
無口でいつもニコニコしている、実加の会社でバイトする愛、
実加の後輩の同級生で、カメラマンのアシスタントをしている
奈々子をはじめとする女の子たちの会話は
実に楽しそうで、チャーミングだ。

個人的なことを言えば、“女子好き”というのはピンとこなかった。
そもそも、女ともだちがあまりいないので、
女子と集まって話した経験が恐ろしくすくないのだ。
だから少々、奇妙な感じは受けたが、その一方でうらやましいと思う。
やわらかく受け止めてくれて、ちょっぴり辛口な女ともだちと
時間を忘れて話すことができたら、どんなに楽しいだろう。

特別なドラマはひとつもないけれど、しみじみとやさしい気持ちになれる。
日常のささいな出来事やちょっとした会話から生まれる
幸福を感じる喜びにあふれているのだ。
そして、日々大切にしている事柄や、そのつながりが
いまの自分を形づくっているということがよくわかる。

こうした群像劇のような小説では、
著者の独特な文体がぐんと生きてくる。
たとえば、何人かが集まって話しているシーンでは、
カットごとに視点が入れ替わるのだ。
基本的には実加の視点から物語は綴られるが、
あるときには小田ちゃん、またあるときには愛の視点に変わる。
どことなくマンガの手法に似ているように感じられるが、
日常のさまざまな場面を複数の視点から描くことによって、
人と人とのかかわりを多角的にとらえようとしているのではないだろうか。


ドラマ性が薄い分、物足りない感じは受けるが、
その物足りなさこそが著者の味なのだと思う。
書きすぎず、余白を残して読者の想像を喚起させる。
女子たちのふんわりとした雰囲気に癒される。
なんとも言えないやさしい気持ちに包まれる読後感は、決して悪くない。



主題歌

主題歌

  • 作者: 柴崎 友香
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/03/04
  • メディア: 単行本



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lucksun

>kanonさん
こちらにもnice!ありがとうございます♪
by lucksun (2008-05-02 00:15) 

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